ARTIST:

Yumi Zouma

TITLE:
Yoncalla
RELEASE DATE:
2016.5.25
LABEL:
Cascine / Rallye Label
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSSeptember/05/2016

[Review]Yumi Zouma | Yoncalla

 本年5月、Yumi Zoumaのデビューアルバムとなる『Yoncalla』がリリースされた。今回のアルバムリリースに合わせ、Yumi Zoumaは現在「Yumi Zouma Yoncalla Fall Tour 2016」を敢行中。日本では9月12日から14日にかけて東京、名古屋、大阪と3都市での来日公演を控えている

 Yumi Zoumaは、ニュージーランド、クライストチャーチ出身のドリームポップ・バンド。2011年に発生したクライストチャーチ地震後、Joshはニューヨーク、Charlieはパリに移り住み、メンバーはそれぞれ離れた場所で暮らしている。リードヴォーカルを務めるChristieは現在もクライストチャーチを拠点とする一方で、Joshはブルックリンのレコードレーベル〈Flying Nun〉でプロジェクトマネージャーとして勤務、Charlieはパリで経済学を学び、SamはZen Mantraとしてソロプロジェクトを行っている。

 Yumi Zoumaは前作までは、楽曲制作を遠隔地にいるメンバー同士でメールのやり取りをしながら行っていた。遠隔地にいる、離れている、距離があるといっても、測り方次第で距離は変わる。物理的な移動距離なのか、メールが経由するサーバーのホップ数なのか、心理的な距離なのか。 今作は、メンバー4人が初めて同じ空間に集まって楽曲を制作したという。

 『Yoncalla』収録作には、 距離が縮まらないことへのもどかしさや、それにともなう葛藤を表現しているような歌詞が目につく。たとえば、「Text From Sweden」では「また恐怖の夜/キミが孤独を感じているか知りたい」、「Yesterday」では「私は遠くまで逃げた/失ったものに気付くため」、あるいは「Keep It Close To Me」では、「心の中に留めておく/私たちはいつか/自分たちを引きずり回し 最後には終わりになる」など。これらは、過去の2作でのメールを介して遠隔で言葉をやり取りしながら行った制作に対する思いや、地震によって変わってしまった故郷に対する思いでもあるのだろう。それに対し楽曲は、失った故郷と自分たちを繋ぐものとしてノルタルジックな雰囲気が強調されている。

 アートワークでは、メンバー4人の顔は描かれておらず、それぞれが違う方向を向いている。本サイトのインタビューで、Yumi ZoumaのメンバーであるCharlie Ryderはアートワークについてこう語っていた(*1)

“『Yoncalla』のアートワークは、個人として一緒にいることのプロセスを反映しているよ。個々として存在しているのではなく、僕たちのアイデンティティを集合体として共有しているという意味でね。だから今作のアートワークには、そういう考えと、髪の毛の部分だけで、僕たちの顔は描かれていないんだ!”

 今作で彼らは同じ空間で楽曲を制作しながら、同時にもう戻ることはないクライストチャーチのことを想起する。心理的距離も、物理的距離も、他者と完全に一致することはない。代わりに彼らは、言葉でも、身体的にも埋まらない隙間を、アイデンティティを共有することによって埋め、お互いに肩を寄せている。彼らの故郷であるクライストチャーチについて、JoshはRadio New Zealandのインタビューでこう語っている。

“[…]ビルや近所が変わってしまうっていうことは予想できるけど、完全に消えてしまうなんてことは普通考えない。それがある意味僕たちを繋ぐ絆のようなものになっているよ。[…]面白いのは、それらの素晴らしい場所をバンドとして回ってきて、個人としてでもまた戻ってくることは間違いないけど、クライストチャーチだけは、僕たちが若かった頃のクライストチャーチという意味で、僕たちにとって2度と戻ってこれない場所なんだ。”

 ”Yoncalla”とは、昨年Yumi Zoumaがアメリカでのツアー中に不遇な状況に置かれた際、メンバー同士で共に楽しい時を過ごしお互いの絆を深め合った場所であり、『Yoncalla』は、彼らにとっては、互いに近さと遠さを同時体験した場所の名前でもある。タイトル、アートワーク、歌詞、楽曲の全体を通して、本作は、不一致を不一致のままに、なおかつメンバーが集合体として何かを共有することで、戻ることのできないクライストチャーチを別のかたちで反復しようという試みであるかのように思えた。

(*1)…UNCANNY インタビューより:https://uncannyzine.com/posts/36512

文・小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。アメリカ留学中。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。