ARTICLESJuly/30/2016
ON BEAT! (13) by Chihiro Ito – The Velvet Underground and Nico “The Velvet Underground and Nico”
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あいまいな記憶。
絵と音とがあいまい。

20数年前のある夏の日。

僕は異様に暑い日差しの中、青山界隈をゆらゆらと歩きながら涼しい場所を探していた。

しばらくして、スパイラルという建物に立ち寄った。
この場所は、作品展用のホールやレストラン、舞台、変わった品揃えのお店などがあり、訪れると、大抵は何かセンスある催し物がある場所だった。

館内をうろうろしていると、階段の踊場で映像関係の会社が、出張販売してる。

近寄ってみて見ると、そこには実験的な映像や本、あまり知られていないノイズ・ミュージックの新譜などがとてもきれいに整頓されて並べられていた。

僕は、映像作品は殆ど買った事はなかったが、その時は何故か、買ってみようと思った。

一本のビデオ作品がとても気になった。

その作品は、アメリカ実験映像で有名な監督、ジョナス・メカス(1922- )の『ライフ・オブ・ウォーホル』というものだった。

内容はアメリカのポップ・アートのアーティスト、アンディ・ウォーホル(1928-1987)やその友人達を撮影したものだった。また、”音楽:The Velvet Underground and Nico”とも書かれており、このバンドの曲を以前から聴いてみたかったのもあり、このビデオを購入してみた。

家に帰り、ビデオを再生してみる。家の液晶テレビにはピンクや水色がチカチカし、いろいろな人種の人達が映りはじめた。

チカチカ映る映像の中に一瞬、ウォーホルらしき人がみえる。

演奏しているバンドが映る。

金髪の女の人が歌を歌う。
……

そんな映像が映っている間に、映画は終わっていた様に思う。
クールサイケデリックとでも言いたくなるかっこいい映像だった。

僕はその時、演奏されていた連続した単純なビートでできたガサガサのノイズにつつまれた曲にとても魅力を感じてしまった。不思議なことに、ギターやベース、ドラムやヴォーカルといったとくに目新しい楽器を使っていた訳ではなかったが、それは初めて聴くような音楽のように感じた。

そしてその音楽は、目新しいモチーフを映さない、映像と合わさってとても新鮮な印象だった。

The Velvet Underground and Nicoを初めて聴いたのはこの時だ。

このバンドが結成されたのは1964年、アメリカで結成。バンド名は道に落ちていたマイケル・リーの1963年のSM小説のタイトルからとったそうだ。結成当初、ニューヨークのCafe Bizarreなどを拠点に活動していた所、アンディ・ウォーホルの目にとまったという。その後、ウォーホルの主催していたイベント、「Exploding Plastic Inevitable」という実験的なダンスや舞台、音楽などのマルチメディア・イベントに出演し、好評を得たこともあり、デビューが決まった。

今回取り上げたアルバムは、そんな彼らの1枚目アルバム。メンバーはルー・リード(Vocal)、ジョン・ケール(Base)、スターリング・モリソン(Guitar)、マーリン・タッカー(Drum)。プロデュースはアンディ・ウォーホル。当時ウォーホルの前衛映像に出演していた女優でモデルだったニコ(Vocal)が加った。これは、ウォーホールの意向だったが、バンドはニコの参加を渋々了承し、デビューアルバムが制作されたと言われる。

アルバムの表紙には、ウォーホルのバナナのシルクスクリーン(1)作品がプリントされている。そして、なぜかバンド名の代わりに大きく彼の名前、”Andy Warhol”が書かれている。また、このアートワークは、CDやレコードの発売時期により、若干変更されている。僕が一番好きなデザインは、初版のレコードのもので表紙のバナナがステッカーになっていて、それをはがすと、ピンク色のバナナの中身が出てくるという、少しポルノを連想させるタイプのデザインだ。

ウォーホルはこの他にもThe Rolling Stones『Sticky Fingers』(1971)やJohn Lennon『Menlove Ave』(1986)をはじめ、幾つかのジャズやクラッシックなどのレコードのアートワークも手がけている。

話をバンドに戻そう。
白、黒、黄色を使ったバナナの絵。

このデザインはビートの強いロックンロールを連想させるが、なぜかとても優しい”Sunday Morning”という曲から始まる。

そうかと思うと、中盤曲の”Heroin”ではヘロインにはまっている男の心情を歌っている。わりと、破綻した歌詞の内容なのに、普通に歌いこなしてしまうところが、このバンドをパンクバンドと言わしめるところなのだろうと思った。

アルバムの後半は、バンドの演奏の他にいろいろなノイズが入ってくる場面もある。

簡単で短い、詩的な言葉。
シンプルな演奏。

どこか懐かしい音のこのバンドがパンクバンドと言われることが、パンクというものが様式的なものではなく自由なものなのだと思わせる。

デビュー後もメンバーは頻繁に変わった。ウォーホルとニコはThe Velvet Undergroundのセカンドアルバム以降は参加していない。

オリジナルのアルバムはライブ盤を除き、4枚のみ。彼らの活動は当時は商業的成功からはかけ離れていたにもかかわらず、現在もその影響を受けたミュージシャン、アーティスト、映画監督などは沢山おり、Niravanaのカート・コバーンや、デビッド・ボウイなどがその名前をあげている。

何年かこのアルバムを聴かずに、忘れた頃に改めてこのアルバムを聴くと、異様に力強いバナナの絵と、それとあまり関係ないようなこの音楽とのあいまいな関係の記憶が鮮明になる。その度に、僕はこのアルバムの印象を深く自分の記憶に刻み続けている気がした。

余談だけれども、ウォーホルは没後も大変な人気で、2014年、彼の「トリプル・エルビス」というエルビス・プレスリーのイメージが3つ重なったシルクスクリーンの作品が、クリスティーズのオークションでその年の最高額、約98億円で落札されたりもしている。販売金額を人気に置き換えるのはあまり好きではないけれど、とにかく、僕は彼の作品のポップな部分の裏に死を感じさせるところがとても好きだ。

ウォーホルが何者か、まだよく解らないままだけれど。

(1)シルクスクリーン……版画の技法の一つ。メッシュ状のシルクを溶液を使って版画の版にする。写真等も含めて転写出来る。その丈夫さと、手軽さで、現在も美術作品や洋服の為のプリントなどに多用されている。

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Artist: The Velvet Underground and Nico
Title: The Velvet Underground and Nico
Rerealsed Date: March 12, 1967
Label: Verve

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。谷川俊太郎・賢作氏らともコラボレーションを行う。8/16-9/17の間、名古屋のGallery Valeurでグループ展、あいちトリエンナーレに参加。9月にはスウェーデンのEdsviken Konsthall(ストックホルム)で作品展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com