INTERVIEWSJune/21/2016

[Interview]デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン – “裸足の季節”

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© 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

 東トルコの小さな村を舞台に、美しい5人姉妹たちが古い慣習から逃れて自由を求める力強い姿を描いた『裸足の季節』が6月11日から全国ロードショーとなった。

 トルコ出身の監督、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェンによる長編デビュー作となる本作は、第68回カンヌ国際映画祭にてヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を獲得し、今年度アカデミー賞フランス代表として外国語映画賞、セザール賞では9部門でノミネートされている。サウンドトラックは、Nick Cave and the Bad Seedsのメンバーでもあり、多数の映画音楽をニック・ケイヴ(Nick Cave)と制作しているウォーレン・エリス(Warren Ellis)が手がけており、今作は彼がサウンドトラックを単独で手がける最初の映画でもある。

 トルコを舞台に、社会的に抑圧されながらも力強く駆け抜ける少女たちの姿は、生気に満ち、鬣(たてがみ)をなびかせる原題の”Mustang(野生の馬)”のようである。女性の地位というシリアスな社会問題を描きながらも、少女たちの躍動感は消えることなく、輝くような空気感が演出されている。そんな今作について、なぜトルコ社会の”女性 ”に目を向けたのか、また映画製作の背景について、フランス、トルコ、アメリカをまたぐなど国際的な経歴を持つデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督にインタビューを試みた。

__今作を製作することとなった経緯を教えて下さい。

現代のトルコにおいて、少女である、あるいは女性であるとはどういうことなのかを考えたいと思っていました。トルコではこれまでになく、女性の地位が社会的な問題となっています。私はトルコで生まれ、その後、フランスに移住しました。また、大学時代にはアフリカに行く機会もあり、“世界を見てきたこと”で、トルコを客観的な目で見ることができたのだと思います。それで感じたのは、“女性”に対する認識が、トルコとフランスでは違うということでした。

__映画の中では、女性の地位という面でトルコの社会問題が描かれていますが、なぜこの部分に焦点を当てようと思ったのですか?

トルコにおいて女性の行動・言動は全て「性」に結びつけて考えられがちです。そのため女性たちは体をヴェールで覆わなければいけないのです。この映画は、トルコの社会とは正反対の目線で描いています。『裸足の季節』の冒頭でも女の子たちが純粋に楽しむために男の子の肩に乗って騎馬戦をするシーンがありましたが、そうした行為が世間では「性」に絡み付けられてしまう。そして反発を受けてしまう。私はこの『裸足の季節』で女性は身体だけでなはないということを訴えています。だからこそ、今回の映画では姉妹たちの勇気が報われるものを作ろうと思いました。

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© 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

__多くの国をまたぎ、フランスで生活されている監督にとって、今のトルコ社会はどのように見えますか。また、トルコのどの部分に惹かれるかも教えて下さい。

トルコを舞台にした物語について特に興味を引かれるのは、トルコには活気があってすべてが変化しているからです。近年、国はより保守的な方向に舵を切りましたが、それでもパワーやエネルギーを感じます。何か重要なことの中心にいるという感覚があり、いつでもすべてが混乱状態に陥り、思わぬ方向に向かう可能性もあります。私は決してこの映画でトルコを批判したかったわけではありません。今作でも描いた結婚式シーンは、伝統的なもので、非常に美しいものです。しかし、いまのトルコは自由でモダンな生活をしている女性たちがいる一方で、非常に保守的な生活を送っている人たちもいる。その二者の間の乖離はとても大きく、ひどいものがあります。だからこそ本作に、向けられたリアクションも様々でした。暖かく受け入れてくれる人もいれば、あまり良い印象ではなかったと言う人もいました。しかし、結果的にこれほどの反響があったということは、トルコ社会の真実を表しており、様々な異なった反応があったのだと思います。

__本編で、姉妹たちが住む黒海沿岸の自然豊かな風景は美しく印象的でしたが、この北トルコのイネボルという撮影のロケーションはどのような経緯で決まったのですか?

ロケーションについては、神秘性を大事にしていました。また、物語をメルヘンとして語ること、畏怖すべきものとして語ることも重要でした。その条件に合ったのが黒海地方でした。冬の緑は非常に怖い感じがするところです。森が多く、自然の力がとても強い。エーゲ海とは違い、黒海は人を殺しかねない様な恐ろしい気持ちにさせます。また、黒海は非常に保守的な地域のため、私の書こうと思っていた題材にぴったりでした。撮影では海岸に繋がる長い道のりが必要だったので、村々をひとつひとつ周り、イネボルという場所が建築的にも風景としてもぴったりで、これこそ私のイメージしている場所だと思いました。とても豊かな光景でした。

__映画の中で少女たちの演技はとても開放的かつ自然でした。監督は演技に関して彼女たちに何か特別に指導していたことなどはありますか?

何か特別にしたということはありません。しかし、三女エジェ役のエリット・イシジャン以外は、演技が初めてだったので、彼女たちが緊張しすぎないように、遊びのような感覚で演じさせました。私自身も先生のように上から指示するのではなく、同じレベル(目線)で演技をさせる。彼女たちがリスクを負わなくてよいように、わたしたちが守っている感じでした。また、大人の俳優を使うことや、物語やキャラクターの背景を細かく話すことによって、彼女たちが内に秘めているものを外に出すように促しました。

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© 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY

__姉妹たちの時に大胆で無邪気な行動、周囲の抑圧にも対抗しようとする姿勢は印象的でした。映画のシーンで監督自身の少女時代の記憶と重なる部分はありますか?

冒頭のシーン、少年・少女たちが騎馬戦をしたことに叱責されるシーンがありますが、あれはティーンだったころの私が実際に経験したことです。ひとつだけ違いがあって、当時の私はまったく反抗しませんでした。恥ずかしくて顔を伏せていました。抗議できるようになるまでには何年もかかりました。また私は、年上の姉や従妹がいて、ちょうど末っ子ラーレのような環境で育ちました。しかしラーレは、ヒーローみたいな存在で、私が言えないことを言える強い子です。彼女は、上の姉妹たちの失敗や経験を生かして、自分の道を開いていきます。

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__今作の楽曲制作にあたったウォーレン・エリスとはどのような話し合いをしましたか? また、監督は楽曲の要請にあたって音楽の具体的なコンセプトやイメージがありましたか?

最初は何人かトルコの作曲家の候補がいました。その人たちの曲を何曲か映画に当ててみたのですが、映画のビジョンにまったく合いませんでした。あまりにも伝統的で、信仰的なものに見えました。そこで、映画にウォーレンの音楽をはめてみたのですが、とてもマッチしたのです。でもこれは彼に会う前の話です。彼と知り合った時、私は妊娠中で、もう少しで出産という時期でした。また同じ時期、彼はアルバム製作中だったので、お互いに依頼することと、受けることをためらってしまっていました。しかし、最終的に彼は引き受けてくれて協力をしてくれました。

__今作におけるウォーレンの楽曲には、オーガニックなサウンドをもとに、少女たちの純粋さ、自然に囲まれた風景などのイメージが繊細に表現されているように感じました。監督は彼の楽曲のどのような部分に惹かれますか?

彼の楽曲は、多くの楽器を使用していて、今作の自然を多く取り込んだ情景に非常にピッタリでした。広場のシーンがあります。どこか性的で重苦しい空気の流れるシーンです。そこにウォーレンの音楽を乗せてみたところ、ぴったりとマッチしました。バイオリンやチューバなど彼がかもし出す音楽がはまっていたのです。芸術的にも自然に調和しており、大きな木の家と黒海の風景という映画のロケーションと完璧に一致しています。あのシーンに電子音楽などはありえません。黒海の景色に合うものでした。

__最後に、今回監督が特にインスピレーションを受けた作品があれば教えて下さい。

私が好きで、影響も受けている作品には『ソドムの市』(76/ピエル・パオロ・パゾリーニ監督)があります。パゾリーニが、比較的下劣な視点から、ファシズムに立ち向かう社会を描いた話です。それと同じように、スタイルと内容が断絶しているようなものを目指していました。『ヴァージン・スーサイズ』(00/ソフィア・コッポラ監督)は公開当時に観て、ジェフリー・ユージェニデスの原作『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』も読みました。でも『裸足の季節』はその種の変形ではありません。それよりも『若者のすべて』(66/ルキノ・ヴィスコンティ監督)が元になっています。また、脚本を書いているときにDVDを流しっぱなしにしておくことがよくあります。『抵抗―死刑囚の手記より―』(57/ロベール・ブレッソン監督)や『アルカトラズの脱出』(79/ドン・シーゲル監督)など、脱出劇もたくさん観ました。映画は、家族という身近な枠組に設定を置いていますが、ドラマの表現としては刑務所ものと言えますね。

質問・文:佐藤里江
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

取材協力:ビターズ・エンド

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■作品情報
裸足の季節
6月11日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次ロードショー
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
音楽:ウォーレン・エリス
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン
原題:MUSTANG/2015年/フランス=トルコ=ドイツ/94分
提供:ビターズ・エンド、サードストリート
配給:ビターズ・エンド
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