15102402
ARTIST:
Savages
TITLE:
Adore Life
RELEASE DATE:
2016.1.22
LABEL:
Matador / Hostess
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSJune/11/2016
[Review]Savages | Adore Life

 漆黒の服を身に纏い、ポストパンク的な雰囲気を醸し出すロンドン発のバンドSavagesはジェニー・べス(Vo)、ジェマ・トンプソン(G)、エイス・ハッサン(B)、フェイ・ミルトン(Dr)から成る女性四人組のバンドである。彼女たちのスタイルは、Siouxsie & The Banshees、Joy Division、Bauhausなどといった生粋のUKポストパンクアーティストと比較されるが、楽曲からは、むしろそれらから逸脱した斬新さ、現代を生きる彼女たちの泰然さを感じる。フランス人のヴォーカル、ジェニーが放つ端的で象徴的な言葉はポエティックでもあり、様々な感情を聴き手に与える。それは、一度ナイフのように突き刺さり、派生的に聴き手の感情がその言葉に付与されていくようである。彼女たちの魔術的で強靭な音楽は、ストレートな一方、婉曲的でもある。それはまるで聖句のように、時に短い言葉でもありながら、強いメッセージ性と意味があるのだ。

 2013年にリリースされたデビューアルバム『Silence Yourself』から3年ぶりとなる今作『Adore Life』は、前作と同様ジョニー・ホスタイルがプロデュースを担当し、ロンドンのRAKスタジオでレコーディングされた。Savagesらしいポストパンク的サウンドを保ちつつも、「The Answer」や「T.I.W.Y.G」のように前作よりもさらに激しいベースラインやドラムサウンドを強調したヘヴィなハードコアに近い楽曲が印象的である。また、全体を通してよりパーソナルな、内から叫ぶようなラヴソングが作詞されていることは、ファーストアルバムには見られなかった新しい試みである。ラヴソングといっても、多くの繰り返される言葉は、愛を渇望するゆえの悲痛な叫び、力強くも繊細な表現がSavagesのモノクロの世界観を崩すことなく、さらに奥深く感情に迫ってくるようである。

 ソングライティングをしているジェニーは、アルバムのキーワードでもある楽曲「Adore」について『Pitchfork』のインタビューで以下のように答えている(1)

“サンフランシスコの本屋で詩集の棚を見ている時に、詩人Minnie Bruce Pratt著作の『Crime Against Nature』という本を見つけた時に、この曲のアイデアを思いついた。この本は彼女が自分の家族を去って、恋人の女性のために自分の子供を捨てるという特別なストーリーなの。これは本当に感動的。愛のために何か大きいことをするという考えや、後になって対処するべき罪というのは私とって興味深かった。どれほどの愛にもそれとは反対の、恐怖、嫉妬、不安、遺棄といったものが付きまとうの。”

 “adore”という言葉は、(神を)崇める、崇拝する、(人を)敬慕する、憧れる、熱愛するといった意味があるが、”love”以上の、『Crime Against Nature』のストーリーのような大きな犠牲を伴ってまで愛する、崇高な言葉のイメージが想起される。曲中に繰り返される”Is it human to adore life?”(人生を崇拝するのは人間らしいことなの?)や、アルバム名でもある"I adore life"(私は人生を崇拝している)という言葉は、短い言葉ながらそのニュアンスは様々な困難を抱えながらも、心の底から滲み出る想いの強さを感じさせる。この言葉はもちろんアルバムジャケットにも記されているが、アートワークに刻まれた”Savages”と”Adore Life”の文字の間に掲げられたジェニーの握り拳は一筋縄では上手くいかない愛の厳しさを表現しているようにも見える。ジェニーはアルバムのアートワークの意味について『Coup De Main Magazine』のインタビューにて以下のように語っている(2)

“”Adore Life”というタイトルをつけることは、Savages(蛮族)/ Adore life(人生を崇拝する)という矛盾になって面白いと思ったの。二つの対極でパラドックスみたいでしょ。私たちが見つけたかったアートワークは、タイトルの”Adore Life”と、このレコードから聴こえる対照的なものを描写するものだった。もしあなたが”Adore Life”と言って、それはただのロマンチシズムであるならば、このレコード、音楽、意図を描写してないわ。ある意味で、この上げられた握り拳は、そう、人生を崇拝するの、でもこれは必ずしも簡単にはいかない、ということを言う方法なの。あなたがこの中でこれから聴くものはこれらの矛盾だらけなのよ。”

 Savages(蛮族)でありながら、”Adore Life”(人生を崇拝する)という、この矛盾はアルバムの核とも言える表現であり、愛について歌うSavages を想像することは容易ではない。しかしながら、ジェニーの述べる、人生を崇拝することの難しさは、誰もが時に経験する冷酷な現実を突きつけられる瞬間、愛するものを遺棄し失うことの恐怖、強まる愛がゆえの執着や嫉妬など、人の心に内在するトラウマ的な残像とも言えるだろう。その残像に重ね合わせるように響く強靭なサウンドとリリックは、ストレートでありながら様々な想いや感情を人々に巡らせるのだ。

 モノクロのポラロイドに佇むようなどこかミステリアスで呪術的な雰囲気を持つSavagesであるが、彼女達の音楽には、決められた鋳型は存在しない。今作において多くの人が共感を覚えるような、パーソナルな内なる想いを”Adore Life”という、ある意味単刀直入で純粋な言葉に濃厚なニュアンスを表現した。そしてパラドックスであったとしても、人々を納得させられる音楽性や芸術性、短い言葉に付与される物語性がSavagesの楽曲には込められている。

*参考資料
(1)…Pitchfork インタビュー:
http://pitchfork.com/features/interviews/9662-love-and-its-opposite-in-the-studio-with-savages/
(2)…Coup De Main Magazineインタビュー:
http://www.coupdemainmagazine.com/interviews/interview-savages-jehnny-beth-their-new-album-adore-life

文・佐藤里江
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍