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ARTIST:
Baauer
TITLE:
Aa
RELEASE DATE:
2016/3/18
LABEL:
LuckyMe / Beat Records
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMay/16/2016
[Review]Baauer | Aa

 私の地元に、新たにスターバックスコーヒーが開店した。駅からは20分ほどは離れているであろう立地だが、それなりに人が居て、それなりに賑わっている様子である。世間話に花を咲かせる主婦の集いや、パソコンに向かって必死に何かをしている青年たち(私もその中の一人だ)、フラペチーノを飲みながら特に会話をするでもない親子……。この文章を書き出している最中、杖をついた老人が、店員に手を引かれながら、奥のテーブルに着座した。

 私の住む街は、ちょうど都心部と東京郊外の狭間にある、いわゆるベッドタウンというべきところで、オープンしたスターバックスの横にはそれなりに広い車道に、それなりに大きい駐車場を持ったコンビニやスーパーが立ち並んでいる。ここから歩くにはやや遠い距離だが、それなりに広い自然公園や大学があり、かつて私はピクニックやお花見などでよくそこに連れて行かれたものだった。

 これといった特徴もなく、あらゆるちょうどよさと物足りなさが同居しているこの街のことを、私はとても好ましく思っている。私たちがこのぬるま湯のような街並みの中でのんびりと生活を送る一方、車道と建物だけが、都市計画にせき立てられるように更新され、新たな店舗がいつの間にか完成していく。そこに何も知らない私たちが流入していく。

 馴染みのないテクスチャを持つ新しい建物が、私たちの眼の前に現れる瞬間はなんとも異様で、若干の恐怖と、静かな興奮とが同居しているような感覚がある。しかし、私たちはいつしかそれを受け入れ、生活の一部として応用していく。人間の習慣の力とは強大なものである。

 流れの中では、新たな文化や価値観の創造、そして人々の順応が繰り返され、次の時代のイメージを建設していく。その変化は、緩やかな流れに応じて起こるものであったりもするが、多くは、新設されたショッピングモールや外資系ホームセンターのように、ある種の衝撃的な革命のイメージを伴って行われる。

 Baauerが〈Mad Decent〉からリリースした「Harlem Shake」に端を発する一連の動画ブームは、時代の流れとしては当然予測出来た流れではあるにしても(日本では、時期を大体同じくして、「恋するフォーチュンクッキー」の動画ブームが巻き起こっていたのを、追憶とともに思い出す)、その爆発はまさに突発的な革命そのものであるようだった。
 
 その「現象」以降のダンスミュージックの変遷や、一つの音楽がアーティストの手を離れ、別のミームを得ることで増殖し続けたという一連の現象というのは、それだけでも十分注目すべき出来事であるが、ここではもっと個人的な問題について綴っていくべきだろう。Baauer自体は、「Harlem Shake」の暴走後、しばらくの間は目立つリリースを行うことがなかった。勿論、ブッキングの増加による多忙などといった正当な理由は存在するだろうが、一度暴走してしまったミームを産んだ親への期待に応えるというのは、相当難しいことであっただろうと考えられる。とはいえ、彼の新作である『Aa』を聞く限り、その過剰な期待は、結果的には彼のキャリアに対する良いプレッシャーを与えたと言って間違いない。
 
 ここ最近の秀逸な音楽アルバムに共通して言える事だが、『Aa』は、様々な音楽性や文化を消化し、一つの世界観へと昇華させることに見事成功している。アルバムをシンプルに聴き通せる程よい重量感とは裏腹に、参照するジャンルも、Trapを起点とし、GrimeやGarage、ディスコチューンなどと幅広く、従来のBaauerというイメージを脱却し、いちアーティストとしての彼の実力を遺憾なく発揮しているように感じられる。

 このアルバム『Aa』で、文化の横軸に対する軽やかな跳躍を披露したBaauerが行ってきたことの大体は、アルバムの最後に配置された表題作「Aa」に集約されるようである。約1分という短い時間の中に、雑多な要素が暴力的に並べられ、切って貼ったような展開が繰り返されるだけの楽曲だが、そこには様々な可能性が感じられる。聴く人によれば攻撃的なグルーヴが気持ちよい、物足りない楽曲であるし、人によってはEDMに対するある種の皮肉のようにも感じられるだろう。一様の解釈を受け付けない、未完成な要素としなやかな変化にこそ、Baauerの持つアーティストとしての強さがある。

 都市は、際限なく置換と増殖が繰り返され、いつまでも未完成なイメージを保ち続ける。そこかしこに巨大な防音シートが張られ、新たな商業施設の開店を人々はいつまでも待ち続ける。

 Baauerというアーティストは、かつてはシーンにおける仮想的な都市の中において、新たなテクスチャの金字塔を一つ打ち建てた。本作『Aa』では、それに対する自省的なアンサーと、都市そのものに順応しながら、新たな可能性を模索する彼の姿が窺える。

文・和田瑞生


1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。