ARTIST:

Parquet Courts

TITLE:
Human Performance
RELEASE DATE:
2016/05/11
LABEL:
Rough Trade / Hostess
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMay/11/2016

[Review]Parquet Courts | Human Performance

 本作『Human Performance』は、日常生活、社会、人間の愛情などに対して懐疑的な視点を聴き手に投げかける。例えば、アルバムの二曲目に収録されたタイトル曲「Human Performance」は、鬱々としたメロディに怒りや苛つきが込められたヴォーカルがのせられている。実際に彼らParquet Courtsの演奏の動画を見ると表情は固く、演奏するのが苦しそうにもみえる。この曲でバンドのフロントマン、アンドリュー・サヴェージ(Andrew Savage)は人の愛情について歌っている。側で感じる息づかいも、隣にいる温もりも、目に見える愛情は人間のパフォーマンスなのであると。

 Parquet Courtsはニューヨークのブルックリンを拠点に活動をしている。2011年にファーストアルバム『American Specialties』 をカセットで自主リリースし、DIYローファイ・ポスト・パンク・バンドとして知られるようになる。2014年には『Sunbathing Animals』を〈Rough Trade〉からリリースし、同年のフジロックフェスティバルにも出演している。そして、同じく〈Rough Trade〉から二作目のリリースとなったのが、今作『Human Performance』である。

 彼らは、苛つきを隠そうとはしない。アルバム冒頭の「Dust」では、”Dust(ホコリ)”が、窓からも、床からも、ドアからも、どこからでも執拗に入ってくると繰り返し歌う。Johann Rashid監督によるMVでは、その”Dust”が強調され描かれる。日常業務を忙しなくこなすデスクワーカーを正面から捉えたその映像は、彼の周囲をホコリが囲み、初めから最後まで粉塵のような不明瞭な配色で終わる。映像の主人公(おそらく、私たち)は、鈍感で無自覚ではあるものの、「何かがおかしい」とは気がついている。

 「One Man, No City」では、もうひとりのヴォーカル/ギター、オースティン・ブラウン(Austin Brown)が気怠そうに、淡々とこの街には”何もない”と歌う。ブラウンが言うには、ここには、思想も言葉も存在すら、”何もない”。気持ちよく繰り返されるフレーズにのせられたこれらの言葉にはゾッとさせられる。不気味な楽曲の陽気さが、虚構の世界に住む私たち聴き手の存在の危うさを浮き彫りにする。

 サヴェージは、素直に「不快と感じる」ことの自己表現が彼にとって自然であるが故に、彼自身にとって音楽やアートは重要だと語っている。社会的抑圧、集団幻想、破壊、不調……それらを剥き出しにして表現することをサヴェージは躊躇しない。また、冒頭で述べた表題曲「Human Performance」で彼らが表しているのは明らかに皮肉であり、愛情が人間にとってパフォーマンスであってよいと彼らが考えているわけではない。それは、彼らにとって苛立つほど”不快な”現象なのだ。翻れば、常に不機嫌と捉えられがちな彼らの態度は、他者への愛情や期待の裏返しであり、それが彼らの、そしてこの作品の持つ魅力の本質なのである。

文・永田夏帆
1992年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒。趣味はベースと90年代アメリカのポップカルチャー。