ARTIST:

Rihanna

TITLE:
ANTI
RELEASE DATE:
2016/02/10 (国内盤CD)
LABEL:
Roc Nation / Westbury Road
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSMarch/07/2016

[Review]Rihanna | ANTI

 『ANTI』は、リアーナの3年振り、通算8枚目のニューアルバムである。TIDALでの先行ストリーミング配信の後、2016年1月29日に発売された。故郷であるバルバドスを離れ、若くしてアメリカに移り住んだ彼女は、過去10年ヒット曲を量産し続けてきたが、本作は、前作までとは違った音に乗った内向的な歌詞が、いつものリアーナの声で歌われている。

 前作までと同様の曲を期待して聴くと、本作には違和感を覚えるかもしれない。リアーナが選んだ今作のタイトルは『ANTI』である。2015年3月のMTVのインタビューで、ニューアルバムについて聞かれた時、彼女は、「ステージに上がった時、披露したくない曲が今沢山あることがわかったの。それらは”私”という感じがしないから」と語っている。歌詞でもまた、たとえば「Consideration」では”I got to do things my own way”、あるいは「Higher」では”wanna go back to the old ways”と繰り返している。

 ドレイクをフィーチャーした「Work」の歌詞にはバルバドス独自の英語が使用されている。彼女にとっての第一言語は、彼女がアメリカに移住する前、バルバドスで習得した英語である。「Work」のMVで彼女が、鏡に向き合い踊っているシーンは、バルバドスへとリアーナの意識が向かっていることをうかがわせる。

 リアーナは、商業的に最高レベルの楽曲提供を受け、最高レベルのプロデューサーと共に成功を重ねてきた。その成功の中のいくつかの曲について「”私”という感じがしない」と言う彼女が、『ANTI』でバルバドスへと意識を向けていることは強調しておいてよいだろう(実際のところ、このようなパトワの使用は一般的なものであり、リアーナは過去の作品においても使っているのだが、この『ANTI』収録の「Work」での使用については、ことさらにそれを”gibberish”であるとするような揶揄が目立つという)。

 『ANTI』は、自身のレーベル〈Westbury Road〉から発売されるアルバムとしては1作目である。このことは、リアーナが自分自身のこれまでの作品の延長として捉えていないし、そのように捉えられることも拒否していることをうかがわせる。また、バルバドスからニューヨークへ渡った後、彼女のメンターでありつづけたJAY-Zが買収したTIDALでの先行配信、”Work”のBajan accentは、『ANTI』というアルバムによって、「もしも、バルバドスの自分が別の道を歩んだとしたら」と、リアーナ自身が過去の成功を振り返りつつ、異なる道を辿るかのようである。

 今作のアートワークは、イスラエル出身のアーティスト、ロイ・ネイチャムの作品である。彼はリアーナから彼女の幼少期の写真を何枚か送ってもらい、それを元に作品を完成させたという。幼少期のリアーナが、王冠に目隠しをされ、黒い風船を握りしめているという描写だ。その上には、クロエ・ミシェルの詩「If They Let Us」が、 点字で施されている。点字の内容の一部は次のようなものだ。

I sometimes fear that I am misunderstood.
It is simply because what I want to say, what I need to say, won’t be heard.
Heard in a way I so rightfully deserve.

時折思う 私は誤解されているのではないかと
理由は単純 私の言いたいこと 私の言うべきことに 耳を傾けてもらえないから
言葉の価値に見合う 注意を払ってもらえないから(1)

 『ANTI』は、外形的には、いつものようにチャートも1位であり、いつものようにヒットしているように見えるが、その内実は、まず聴いた時点で異なる。『NME』では”take-me-seriously-as-an-artist”とも言われているが、リアーナは本作で、前作までのような成功ではなく、自身に対する評価軸の変更そのものを求めているのかもしれない。

(1)…国内盤ライナーノーツの翻訳を参照

文:小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。