EVENT REPORTSFebruary/29/2016

[Event Report] SPACE SHOWER ALTERNATIVE ACADEMY – OGRE YOU ASSHOLE、D.A.N.、Albino Sound、Qrion

 “TOKYOから未来へ”。2016年、SPACE SHOWER TVが「次世代を創造する新たな音楽とカルチャーの祭典」と銘打ち、『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2016』を始動した。このプロジェクトは、音楽文化の発展への貢献を目的とし、ジャンルを問わず邦楽を発信し続ける音楽チャンネルとしての独自の視点から、音楽とそこに親和性のあるカルチャーを異なる5つのイベントを通して発信するものだという。その5つとは、様々な音楽コンテンツで功績をあげたアーティストとクリエイターを表彰する「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS」、ピックアップされたニューカマーによるショーケースライブ「SPACE SHOWER NEW FORCE」、音楽映画やサブカルチャー映画を上映する「SPACE SHOWER MOVIE CURATION」、音楽表現のアートワークにフォーカスした展示会「SPACE SHOWER MUSIC ART EXHIBITION」、そして、今回2月23日にShibuya WWWにて行われたイベント「SPACE SHOWER ALTERNATIVE ACADEMY」である。

 今回、出演アーティストは、OGRE YOU ASSHOLE、D.A.N.、Albino Sound、Qrionの4組(出演予定だったceroは、メンバーの体調不良により出演がキャンセルとなった)、それぞれが表題通り、個性的なライブパフォーマンスを行った。

Albino Sound
 最初のアーティストは、プロデューサー兼マルチ・プレイヤー、梅谷裕貴のソロ名義であるAlbino Sound。Red Bull Music Academyによって選出された数少ない日本人アーティストのひとりとしても知られている。「TAICO CLUB」 や「RAINBOW DISCO CLUB」等の音楽フェスに出演する傍ら、The Day Mag.jpの制作した短編ドキュメンタリーや若手映像ディレクター石田悠介の短編映画『Holy Disaster』への楽曲提供も行うなどその活動は多岐に渡る。

 2015年10月にデビューアルバム『Cloud Sports』をリリースしたばかりだが、会場となったラウンジはスタート時から満員になっており、彼がすでに脚光を浴びる存在であることが見て取れる。硬過ぎず、それでいてタイトなキックと、複雑でミニマルなリズムが何層にも重なる。そこにアンビエントなメロディや柔らかい感触のサンプリングが乗せられ、その異なる質感の重なりが心地よい揺れを与える。クラウトロックやニューエイジといった、過去のカルチャーに根ざした実験音楽をベースに、現代のエレクトロニカやテクノの要素を美しく組み立てるその音楽は自身がいう“イメージのスポーツ”とも形容できる。それはまさに彼の細胞から創り出された大きな1つのイメージの中に引き込まれるかのようなパフォーマンスであった。

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D.A.N.
 その後メインステージに登場したのは、2014年8月に結成された東京出身の22歳の3ピースバンドD.A.N.。トクマルシューゴ等のエンジニアを務める葛西敏彦をエンジニアとして招き、自主レーベル〈Super Shy Without Beer〉と、〈BAYON PRODUCTION〉のサイドレーベル〈Roman Label〉との共同リリースという形でデビュー作となる『EP』を2015年7月に発表。また同じく7月には「FUJI ROCK FESTIBVAL ’15」に出演。ここに至るまでに結成から1年も経っておらず、まさに次世代の音楽シーンを駆け上がってきた存在と言える。また、彼らは、2016年4月に、ファーストアルバム『D.A.N.』をリリースし、5月にはshibuya WWWにてレコ発ワンマンライブを行う予定である。

 フランクで少し謙虚なMCとは裏腹に、強い気迫や覚悟が、どこか大人びてクールな佇まいの彼らが出した音の一発目からひしひしと伝わってくる。アンビエントやノイズなどの実験音楽やミニマルなビートミュージック、生音と打ち込みを上手く絡ませたトリップホップやエレクトロポップ、ブラックミュージックのグルーヴやサイケデリックな音色、また日本の普遍的なポップスのメロディと、まず彼らの音楽にはジャンルの垣根を越えた様々な要素を(意識的にか感覚的にか)巧みに吸収しているように感じる。その上で「ジャパニーズ・ミニマル・メロウ」を掲げる彼らのサウンドには、確かにミニマルとも言える硬い質感のリズム隊にメロウでサイケデリックな音色が乗り、程よい陶酔感とも言える享楽が存在していた。さらに今回のライブは、「ゆとり世代」と自負する彼らのどこか冷めた部分の中にある勢いを感じさせるものだった。ズシンと身体に響くようなキックとスネアに軽快なハイハットがしっかりとリズムを刻み、良い意味でバキバキとした音で落ち着きを払いながらも確かに蠢くベースライン、浮遊感やどこか酩酊感とも言える揺らぎのあるギターやシンセサイザー、ファルセットに大胆なリバーブをかけてもなお、はっきりと突き刺さるボーカルとコーラス、さらにサポートメンバーの小林うてなによるスティールパンやサンプラーがそのアンサンブルを多面的に色付ける。今回は、「Ghana」「Pool」などの既発曲のほか、次作からの曲も多く演奏されていた。作曲時もボーカル櫻木が持ってきたデモを解体して一からセッションの中で再構築するというが、彼らが現場で起こした化学反応とも言えるその衝撃にそのまま揺り動かされるように、観客は身体を揺らしていた。

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Qrion
 続いてラウンジには1994年生まれの女性トラックメイカーQrionが登場。高校時代にEPを2枚リリースし、10代の女性の繊細な感性から生まれたエレクトロニカはネットを介して広がっていく。その後、カナダのプロデューサーRyan Hemsworthとの共作「Every Square Inch」(with Qrion)がSoundCloud上で発表されたのを皮切りに彼女の名前は世界中に知られることとなり、2015年3月にはサンフランシスコ公演を成功させる。現在ではUSのエージェンシーであるSurefire Agencyと契約し、アメリカ本土での活動を視野に積極的な音楽活動を行っている。

 彼女の音楽はエレクトロニカの冷たい感触は確かにありながら、しなやかで艶やかな印象を受けた。エレクトロポップとも言える歌モノからテックハウス、アンニュイなヒップホップ、重みのあるトラップなど、35分間の間に幅広い展開を見せた彼女だが、その音色やメロディからは、まだどこか少女の面影も残る女性の繊細や強かさ、欲望と怠惰、色気の中にある毒々しさなどを感じさせる。華奢に伸びた指が操るエフェクターやサンプラーも彼女の遊び心やイメージを効果的に見せ、彼女が色っぽく微笑んで踊る度に会場の熱量が上がるのが伝わる。そのライブは、たった35分間の中にぐっと彼女の世界観が詰め込まれた圧巻のものだった。

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OGRE YOU ASSHOLE
 最後にメインステージに登場したのはOGRE YOU ASSHOLE。2005年にセルフタイトルのファーストアルバム『OGRE YOU ASSHOLE』をリリース。数々のロックフェスやライブに出演し、2010年にはモントリオール出身のWolf Paradeと共に全米とカナダの18カ所を回るアメリカツアーを行う。当初はUSインディーの影響を受けたギターロックサウンドで日本のメジャーシーンで活躍していたが、2011年8月にリリースされた4枚目のアルバム『homely』以降はサイケデリックやプログレッシブ、AOR、ノイズミュージックやクラウトロックの要素を取り入れるという多様性を見せた。5th Album『100年後』、そして6th Album『ペーパークラフト』という3部作を発表した現在では、日本のインディロックを好むリスナーから前衛音楽や実験音楽を好むリスナーまで幅広い支持を得るインディバンドとなっている。

 現在“ミニマル・メロウ”を提言する彼らだが、楽曲のアレンジは精密に構成されており、楽曲に深みや奥行きを与えている。しかしそのアレンジには無駄な要素がないため一見するとシンプルな作りに見える。今回のライブでもオーガニックな要素を感じる民族楽器や実験的な打ち込みを使うなど様々なアレンジが施されていたが、そのどれもが効果的に曲に厚みや立体感を持たせていた。一定のフレーズをループしたようなアレンジのサイケデリックなダンスビートやスロウなバラードまで曲調の幅も広いが、そこに共通するのはシニカルな言葉をメロウな声で乗せるボーカルとあくまでもそれを生かすための楽曲アレンジであろう。飄々とした佇まいと、それでいてしゃんと立つ存在感を放つボーカル出戸のファルセットとも言えない高音の声は、一見柔らかいのにどこか諦観しているような冷たさを感じる。彼らの世界観に一度踏み込むと、ゆっくりと落下している様な欠落感や、「どこに向かっているのか分からない」感覚を彼らが悟ったかのように受け止めてくれるような安心感を覚える。ゆっくりと変わりながらも着実に進化してきた彼らのその長いキャリアを感じさせる確かな技量とオーラを感じさせる堂々としたパフォーマンスであった。

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 今回のライブに出演したアーティストたちは、筆者を含む「さとり世代」がよく指摘されるような享楽性や気怠さを感じさせる一方、本質的には一見異質なものを掛け合わせることで強い個性や独自の世界観を作り上げた気骨のあるアーティストたちが揃っていた。彼らの音楽が、”TOKYOから未来へ”、また世界へと繋がっていく希望や期待を抱きつつ、会場を後にした。

■番組情報
「TOKYO MUSIC ODYSSEY 2016 SPECIAL」
初回放送:3月27日(日)22:00〜23:00
リピート:4月予定
スペースシャワーTV:http://www.spaceshowertv.com/

■イベント情報
TOKYO MUSIC ODYSSEY 2016:関連イベント
「SPACE SHOWER MUSIC ART EXHIBITION」
開催日:
2016年3月4日(金)11:00~19:00
2016年3月5日(土)11:00~20:00
2016年3月6日(日)11:00~19:00
場所:東京 渋谷 space EDGE
HP:tokyomusicodyssey.jp/art/

Photo by SUSIE

取材・文: 成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。