EVENT REPORTSDecember/15/2012

[Live Report]Major Lazer 一夜限りの来日公演!!- 2012/12/9 at VISION

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 首謀者であるディプロが第55回グラミー賞「Producer of the Year, Non-Classical」部門へのノミネートが発表された直後というこれ以上ないタイミングでのMajor Lazerの来日となったが、まさにその勢いが感じられる圧巻のステージであった。今回の来日公演は一夜限りでありながら、ディプロに新メンバーであるMC担当ウォルシー・ファイアー、DJ担当ザ・ジリオネアに女性ダンサーをふたり交えた妥協のない布陣で望んでおり、YouTubeなどで見られるド派手なステージングを余すことなく披露してくれて全く飽きることがなかった。

 大トリでの出演であったため、彼らが準備をしている時間もすでに温まったフロアは、彼らの登場を今か今かと待っており、緊張感と興奮が入り混じった異様な雰囲気に包まれていた。しかし、音が鳴り始め、スーツでばっちり決めたディプロがブブゼラを持って現れ、それをフロアに投げ入れるとそれまでの緊張感はウソの様に国籍性別関係なしの無礼講ダンスパーティーに突入した。

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 紙吹雪を撒いたり、ディプロが風船の中に入りオーディエンスの上を歩いたり(天井に引っかかり5秒ほどで破れてしまったが)、ダンサーが見とれてしまうほど迫力のあるダンスを披露したりと、とにかくエンターテイメント性の高いステージで、それに感化された観客もステージに上がりセクシーなダンスを踊ったりと、もはやアーティストと観客との境目がなくなり、その相乗効果によってフロアの熱気が生み出されていたのが印象的だった。

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 しかし、エンターテイメント性を重視したステージで観客を盛り上げるアーティストは山ほど存在する。確かにド派手なステージングが盛り上がりの大きな要因になっていたのは間違いないが、やはり彼らの真骨頂はその音であった。「Express Yourself」、「Pon De Floor」など等、ディプロお得意のいい意味で偏差値が低すぎるトラックやダンスホールレゲエなどをスムースに繋ぎつつ、ラナ・デル・レイやサイ(なんとディプロ、2チェインズとのコラボレーションが決定!)など、誰もが知っているヒット曲を挟むという構成で、前方で踊り狂ってるパーティー・ジャンキーから、後方で腕を組みながら見ているいわゆるうるさ系のクラブミュージックファンまで満足させる完璧なセットだった。

 ここで印象的だったのは、途中で挟まれるヒット曲が、快楽を突き詰めて極限まで研ぎ澄まされたディプロの楽曲に挟まれることによって、楽曲の持つ煌びやかさではなく、その裏にあるスターたちの孤独や虚無感がむき出しになっているように感じたことだ。かつて、アンディ・ウォーホルは、ハリウッドスターを題材に作品を制作することで、そのスターの裏側を浮き彫りにした。そして、ディプロもまた、楽曲を丸裸にし、その本質を見せつける。だから、ディプロがかけるヒット曲は単に盛り上がりの起爆剤としてではなく、説得力を持って観客の耳に入ってくるのだ。このメジャーとマイナーを自在に行き来でき、なおかつそれを矛盾なく形にできてしまうのがディプロの凄さであり、この感覚を持っているプロデューサーはなかなかいないのではないかと思う。

 また、2013年リリース予定のアルバム、『フリー・ザ・ユニヴァース』に収録予定の楽曲や、今回のアジアツアーのティーザー映像で使用された「Get Free」の日本語版なども披露され、来年もディプロ率いるMajor Lazerがシーンを騒がせることは間違いないと確信した。約1時間半、本当に盛りだくさんで格の違いを見せつけられた衝撃のパフォーマンスであった。

取材・文: 豊田諭志
1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員。青山学院大学音楽芸術研究部の現部長。

Photo: Kayoko Yamamoto