ARTIST:
Grimes
TITLE:
Art Angels
RELEASE DATE:
2015/12/11
LABEL:
4AD / Hostess
FIND IT AT:
Amazon, iTunes, Apple Music
REVIEWSDecember/20/2015
[Review]Grimes | Art Angels

 Grimes、本名Clare Boucherの世界観は不可思議でグロテスクな一方、ポップで可愛らしくもある。彼女の楽曲やMV、アートワークの表現はいつもどこかポスト・インターネット的であり、一つのジャンルに固執しない多様性を持っている。多様性と言っても、すべてを雑多に交錯させているわけではなく、多様なカルチャーを彼女なりのフィルターによって圧縮することで、コントラストの中にも調和を生み出している。彼女の表現する異質な世界観、音の融合は、狂気的でありながら、繊細さ、柔軟さが混在し、それが故に、人々を強く惹きつける。

 前作『Visions』から3年ぶりとなった今作『Art Angels』は、冒頭の「California」やラストの「Butterfly」、先行で公開されていた「REALiTi」、また、ミュージックビデオも制作された「Flesh without Blood」やアルバム・タイトル曲「Artangels」など、爽快なメロディやギターリフ、心地の良いテンポと透明感のあるヴォーカルなど、楽曲全体を通して一段とポップで絶妙なバランスのとれた楽曲群により、繊細で洗練された作品となっている。従来の重厚感のあるベースサウンドと幽玄なヴォーカルというコントラスト、独特の気味の悪さが軽減されたようにも感じられるが、彼女の音楽性は多様なスタイルを偏愛し、その非凡な芸術的センスによって矛盾と不一致を乗り越えることで、新境地へと向かっているようである。今回多く取り入れられたオーガニックなサウンドは、心地よくもGrimesらしく、どんなサウンドでも自身のスタイルに取り込んでしまう、彼女のプロデューサー気質が成し遂げた独特な彫像のようでもある。

 また、今作における歌詞は、頭から離れないような印象的なフレーズが多く、強いメッセージ性が感じ取れる。Grimesの表現作法において、毒々しさやグロテスクさも印象的だが、前作収録の「Oblivion」が、暴力といった彼女のパーソナルな体験をもとに作詞されたように、彼女の内面は繊細かつ穏和でもある。今作では、自身が語るように、ファンタジーという視点から、社会や外界を見通すことで、作品により濃厚な意味が与えられている。同時にGrimesの不思議な詩の世界は、聴き手にとって自由な連想、様々な解釈が可能であり、それは多くのインスピレーションの源にもなり得ている。

 ところで、彼女自身が手がけた今作のアルバムジャケットも含め、Grimesのアートワークからは日本的な漫画やアニメを連想させる。2012年にニューヨークのAudio Visual Artsで開催された自身の個展では、彼女が描いた絵画作品が展示され、どの作品もやはりアニメ的な要素、スカルや目玉のモチーフといったサブカルチャーのイメージが想起されるものであったが、実際に彼女は、小さい頃からセーラームーンなどの日本のアニメに夢中であったことを公言している。このような幼少期における日本のポップカルチャーとの出会いが、後のGrimesとしての創作活動に強く影響を与えたことは想像に難くない。彼女が育ったカナダのバンクーバーという、アジア系の人口を多く抱えるマルチカルチュラルな環境によって、彼女のインスピレーションはより一層刺激され、楽曲制作やアートワークへの創作イメージへとつながっている。異文化的を恐れず、むしろ異質なものを集約しながらも作品をより完成度の高いものへと昇華させることに貪欲とも言える。例えば、今作では台湾のラッパー、Aristophanesと収録曲「Scream」でコラボレーションしており、もちろん歌詞はすべて中国語で作詞されている。Grimesの国や言語を超えたこのような試みは「REALiTi」のミュージックビデオのロケーションにも垣間見られる。また、「Artangels」の歌詞においてもフランス語を混ぜるなど、自国・カナダの多言語・多文化的な要素を楽曲に取り入れている。

 Grimesは、自身の創作において、多様な音楽、芸術、文化、環境の諸要素を取り込むことに躊躇しない。そして彼女は、それらから抽出した異質感、不一致、不可思議さを、魅惑的な美しい響きへと変容させてしまう。異質なものを昇華する、と先に述べたが、不一致をそのまま受け入れ、結合していると言った方が正確かもしれない。そして、そこで生み出される均衡は予言的な響きを持ち、芸術性を帯びたポップとして、聴く者、見る者を強く惹きつけてやまないのだ。

文・佐藤里江
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍