ARTIST:
Oneohtrix Point Never
TITLE:
Garden of Delete
RELEASE DATE:
2015/11/10
LABEL:
Warp / Beat Records
FIND IT AT:
Amazon, iTunes, Apple Music
REVIEWSNovember/21/2015
[Review]Oneohtrix Point Never | Garden of Delete

つい先日、SONYがベータビデオカセットとマイクロMVカセットテープの出荷を終了すると発表した。YouTubeでは時折、VHSかベータかわからないが、とにかくビデオテープからキャプチャしたと思しき映像を見かけることがある。「いかにもビデオテープらしい」ノイズの混濁は、映像の内容以上になにごとかを語ることがあるように思える。

Oneohtrix Point Never(OPN)の新作、『Garden of Delete』が11月10日に発売された。BlogTwitter、YouTubeやiTunesでの収録曲の先行配信、発売前週には同じく収録曲の「Sticky Drama」のMVの公開など、長期間のプロモーションを経ての発売であり、12月には来日公演も予定されている。

OPNは本作についてインタビューに応じている。それによると、SoundgardenやNine Inch Nailsのツアーへの参加が影響したこと、スタジオを地下室に移したという生活の状況の変化の中、子供時代の音楽や、オルタナティブロックのことを思いながら、本作を制作していたという。

SoundgardenやNine Inch Nailsは80年代半ば以降に活動を開始し、1990年代の初頭から大きく注目されたバンドである。OPNは1983年生まれだから、1990年頃には10歳前後である。今作のプロモーションで前面に出ている、宇宙人Ezraの年齢は何歳くらいだろう。どうやら宇宙人のようなので、人間のスケールで年齢を言っていいのかわからないが、当てはめていいのかわからないが、10歳くらいの少年だろうか。

10歳くらいの頃に好んでいた「カッコイイもの」というのは、背伸びしていても、どこかその背伸びも含めて「あからさまにカッコイイもの」である。聴いていて高揚感がある、ゲームをやってプレーヤーになりきったりする。それらを思い出すのがどこか恥ずかしい。高揚感も帰ってくるからだ。「Sticky Drama」のMVの設定にあるRPGの中のプレーヤー役の少年(彼らもまた10歳前後だろうか)を、CDをアクセサリーか鎧のようにまとい、冷めた目で見つめる少女の視線は、この年代の男女の精神的な成熟度の違いを思わせる。

このようなカッコよさを求めていたことそれ自体を、気恥ずかしいものとして「なかったこと」にしたとしても、やはり自分のどこかには残っている。「Mutant Standard」を聴き、4分経ったあたりでは、怒首領蜂大往生のプレイ動画のあまりに見事なテクニックを思い出したりする。このようなカッコよさに、高揚感をかつて覚え、いい歳をした今でも、気恥ずかしさとともに覚えることは否定できない。

気恥ずかしい。『Garden of Delete』で、あからさまなかっこよさを覚えるようなギターリフや、BPMが高い曲に対して、2000年代風のノイズがかかると、どこかそちらを主として聴き、高揚感をかき消し安心しようとしてしまう。また、「Mutant Standard」のあとに「Child of Rage」が、「I Bite Through It」のあとに「No Good」が、遊び疲れた後に眠る時のように優しく聴こえる。

**

子供時代の数年、数ヶ月、数週間、数日は非常に長く感じる。10歳前後に何を見たのか、「何を」カッコイイと思って気恥ずかしく思ったのか、それは様々である。ビデオテープでテレビ番組を録画し、それを繰り返し見た経験がない人にとっては、YouTubeの「いかにもテープからキャプチャした動画」に混入するノイズは、その時代のインデックスとしては機能しない。ひとしなみに全て「素材」として扱われるはずである(Vaporwaveの発端はそのようなものだ)。

「Sticky Drama」のMVに出てくる少女は、2015年にいるのか、1990年にいるのか。少女が1990年にいるとしよう。1990年前後には、アナログ盤からCDへの移行があった。1990年前後にあのように着飾ることは、同い年の少年が夢中になっているものに対して冷めた目線をとることだろうか。

少女が2015年にいるとしたらどうだろう。CDからストリーミング配信に移行が進み、アナログ盤をかける。CDがあのように使われることは、たんに事実そのものである。実際に筆者は、ずいぶん前からカラスを避けるためにCDがぶら下げられているのを見かける。

OPNは、常に「新しいもの」を提供したいという。しかしその新しさは、体感する時間の伸縮に敏感であればあるほど、複雑なものになる。Ezraにとっては何もかもが新しく、数時間や数日に敏感である。大人でも、たとえば、4、5ヶ月前に流行してあっさり消えてしまったことに対して、記憶能力が高く、これを絶妙なタイミングで出して笑いをとることができる人がいる。体感時間の伸縮に敏感な人間から放出される新しさと古さの混在は、受け手に対して奇妙な感覚をもたらすことがある。

OPNの本作にも、そんなところがある。OPNは上記のインタビューで、本作について、自分なりのオルタナティブロックを構想し、結果としてはインダストリアルとなり、1990年と2050年を合わせたような感じだ、と言っていた。だとしたら、2015年発売の『Garden of Delete』は、すでに、「2050年の今年聴くべきアルバム」なのかもしれない。

文・MMHT_R