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ARTIST:
Skylar Spence
TITLE:
Prom King
RELEASE DATE:
2015/9/18
LABEL:
Carpark / Hostess
FIND IT AT:
Amazon, iTunes, Apple Music
REVIEWSNovember/16/2015
[Review]Skylar Spence | Prom King

 資本主義からどれだけ遠くへ逃げることができるのか。Skylar Spenceが、Saint Pepsi名義でリリースした『Hit Vibes』の魅力のひとつがそれだった。同アルバムは、2013年、〈KEATS//COLLECTIVE〉よりフリーダウンロードという形でリリースされている。当時”Vapor Boogie”というタグがついた同作では、山下達郎をはじめ、The Whispers、Sister Sledge、Johnny Bristol、Enchantment、Clarence Mannなどの著名なダンスクラシックがラフにサンプリングされている。権利関係等は、おそらくクリアされていないと想像できる。フリーで配布されたことも含めて、それが当時で言うところの「インターネット感」を体現しており、今手元にあるものだけで自由に好きなものを作る、といった姿勢が貫かれている。また、ジャケットのアートワークを含め、知性をあえて外したかのような極端なわかりやすさ、ポップさが、むしろ作品に知性を与える結果となっていた。『Hit Vibes』は、何からも拘束されない自由さと、まるで現代美術のような逆説的な知性にその本質的な表現の魅力があった。実際にはどこへも逃げることはできないと、誰もが十分にわかっているからこそ。

 ほとんどの場合、人は”Feed”される側から、”Feed”する側へと成長する。自立ともいう。社会の規範を守りながら生きるのは当然と見なされるようになる。Saint Pepsiが、Skylar Spenceへと名義を変えた経緯はその過程のようでもある。Saint Pepsiは、『Hit Vibes』の評価を背景に、米インディ・レーベルの〈Carpark〉と契約し、Skylar Spenceへと名義を変更した。名義の変更は「法的な理由」と発表されたが、同時に最終的には「商品」となる作品にもサンプリングに法的な縛りが加わることになるため、『Hit Vibes』と同様にはつくれない。そのような状況下でリリースされた初のスタジオ・アルバムが、本作『Prom King』であった。

 新名義である“Skylar Spence”は、ウディ・アレンの1996年公開のミュージカル・コメディ映画”Everyone Says I Love You”(邦題『世界中がアイ・ラブ・ユー』)の登場人物の名前から拝借したという。この映画は喜劇であるが、一連のウディ・アレンの作品と同様に、その裏側にはまるで本物の人生と同じような悲哀が同時に描かれている。現実がそうであるように、物語もまた単純なハッピーエンドでは終わらない。ドライに考えれば、恋愛は合理的でないものとして人生から排除すればよいのかもしれないが、それでも望んでしまうものが恋愛であり、ときに苦悩や悲しみのもとになる悲劇を招くことすらある。しかし、その恋愛が齎す複雑さを”Everyone Says I Love You”と言うことで乗り越えようとするところに、観る者は共感を覚える。

 この映画のセリフは、『Hit Vibes』でもサンプリングされており、すでに“Skylar Spence”は収録曲のタイトルにもなっていた。『Prom King』は、彼の中で大きな存在でもある”Everyone Says I Love You”の中で描かれていた主題や世界観を、彼自身の解釈によって音楽という新たな手法で表現した作品とも言える。サンプリングという手法が、表立って使用できなくなった代わりに、歌詞を書き自ら歌うことで、伝えたい主題そのものに、より具体的にフォーカスしている。収録曲「Prom King」「Can’t You See」「I Can’t Be Your Superman」「Fall Harder」「Affairs」「Fiona Coyne」では、すべて一方的に恋をしたときに生まれる「片思い」の高揚感が歌われている。どこまでもポップなディスコ・サウンドに乗せて、Skylar Spenceは恋愛の夢を歌っている。

 7インチ・シングルにもなった「Fall Harder」は、ストレートな恋愛の歌だ。Skylar Spenceは、実体験をもとにしながらも、聞き手が共感できるような普遍的な作品づくりを心がけたという。”I couldn’t fall harder(これほど恋に落ちることはないだろう)”とSkylar Spenceは歌う。Alex Girav監督によるミュージックビデオでは、新たなテーマが加えられ、現在と過去(または未来から現在か)を行き来する様子が描かれている。時間の経過と共に、恋人たちは初めの気持ちを忘れてしまうことがある。映像で描かれているように、その時に戻って、その時の感情を思い起こすことができるなら、仮に危機が訪れても、ふたりはずっと一緒にいられるのかもしれない。もちろん、過去に戻ることなどは現実的にはできない。あくまでフィクションの話である。Skylar Spenceは、そうした煌めくようなフィクションの世界を通じて、人が向き合うであろう人生の真実や悲哀を私たちに語りかける。自立した作家の言葉だからこそ、より説得力を増して響いてくる。

註:事実関係に関しては、レーベル公式サイト、国内盤ライナーノーツを参照した。

文・
成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。

T_L
UNCANNY編集部員。主にプルーフリーディング、その他サイト運営における雑務全般を担当。