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ARTIST:
Empress Of
TITLE:
Me
RELEASE DATE:
2015/9/11
LABEL:
Terrible Records
FIND IT AT:
Amazon, iTunes, Apple Music
REVIEWSOctober/12/2015
[Review]Empress Of | Me

 イコンは、「愛する人の写真に似た存在」という風に説明されることがある。「愛する人の写真」を見るとき、写真を見ながら、私たちはそこに写っている「人」を愛するのであって、決してその「写真自体」を愛するのではない。もともとイコンとは、私たちはそこに描かれたイコンを通して、神とは何か、を理解していき、神への愛を深めていくのであって、決してそこに描かれているイコンを愛するのではない。

 LA出身、ブルックリンを拠点とするLorely Rodriguezによるプロジェクト、Empress Ofによる『Me』が、先月〈Terrible Records〉よりリリースされた。ブルックリンでプロデューサーとして活動する一方、Empress Ofとして2012年にシングル”Champagne”でデビューしてから、1分前後のトラックに数字を割り当てたものを“Colorminutes”と題しYouTubeで公開、2013年には同レーベルからEP、『Systems』をリリースしている。

 彼女は現在、今知っておくべきアーティストとして、Pitchforkから、Vogue、The Guardianなど、名だたるメディアから取り上げられ、注目を集めている。ではなぜ、彼女が現在「アイコン」として注目されているのか? アルバム『Me』は「アイコンであるLorely Rodriguezによる、IconであるMeについて」の作品であり、注目を集めているということそのものをそのまま作品にしようという苦闘が描かれている。実際、作品の制作過程はメディアが追いかけ続け、意図的に世に晒されている。

 このアルバムを制作するにあたって、彼女は活動拠点としていたNYを離れ、メキシコにある友人の家を借りて、約1ヶ月間そこにひとりで滞在しデモを作成している。そしてこのアルバムは、彼女が作詞、作曲、レコーディング、プロデュースを9ヶ月間かけて、全てひとりで完成させている。“How Do You Do It”のMVは、彼女の地道で過酷なツアー生活の裏側が映し出されており、長時間の移動、会場の薄汚いバスルームで足の毛を剃り、床やモーテルで寝る、という生活をひたすら繰り返す姿が映し出されている。Iconである彼女の日常は、わたしたちの過酷な日常とどこかで繋がっている。

 ”Kitty Kat”は、ある日突然道端で知らない男性に言われた不条理な言葉に対して、その時言い返したかったことをそのまま歌詞にしている。あるいは、“Standard”のMVでは男性ボディビルダーと共演しており、女性である彼女が男性ボディビルダーにネイルをペイントしていたり、男性である彼が、女性である彼女の髪をブラシで梳かしている(これは、Braidsの”Miniskirt”で、ヴォーカルのRaphaelleが”I’m not a man hater, I enjoy them like cake – 私は男嫌いなんかじゃない、ケーキを食べるように楽しむわ“と歌っているのを理解するのと同じ構造だろう)。

 ”Make Up”や”Threat”では、過去の記憶についての鮮明な描写や、心の内を正直に打ち明けた彼女の歌詞から、Iconである彼女の等身大の姿、つまりMeを私たちは想う。初めに述べたイコンの原理と同じではあるが、Iconである彼女のMeはまた、どこかわたしたち自身を思わせるところがある。もちろん、私たちはすでにリアリティ番組の存在する世界を生きているし、プライバシーを商品化することも日常のことである。現代において「ポップである」こと、あるいはIconであることは、MeもそのままにIconとしてしまう。しかしそれでも、その断片には、嘘ではない部分があるようにも思う。

 彼女がこのプロジェクトのために選んだ、Empress Ofは、直訳すれば、「…の女帝、皇后」である。選んだといっても、友人とタロットカード占いをしていたとき、友人が彼女のために引いたカードは女帝のカードだった。その時彼女はその女帝のカードに自分の運命と未来を感じ、その名前に決めたという。

 重大な選択をするときに「占い」のカードを重視している。「占いなんて…」と言いつつ、それに頼る。「リアリティ番組」の断片にも嘘でないところがあると思っている。MVに映し出される「薄汚いバスルームで足の毛を剃る」彼女の姿、歌詞、それらはすべて意図的に晒されたものだとしても、なおそれは嘘ではないところがある。このアルバムを聴く私たちの生活もまたそのようなものだからだ。

 この作品について、The standard Hotelsでのインタビューで、彼女はこう言っている

このアルバムを制作するにあたって、私は自分自身をさらけ出したかった。私はここにいる。そしてこれが私の物語よ。ってね。何も隠したくなかったの。(中略)メキシコにいた時に、私は自分にとって大切なことについて書きたかった。テクスチャやサウンドを気にすることなく、自分が言いたいことは一体何なのか?ってね。

 このアルバムは、”Everything Is You”にはじまり、”Icon”に終わる。アートワークには、「私の物語」「隠したくない」「自分にとって大切なこと」「全てをさらけ出したい」「自分が言いたいことは一体何なのか?」と言っている彼女自身が、口元を隠した写真が使用されている。『Me』という作品は、IconであるMeへの視線をそのままに、ポップスの枠の中で作品としたものであり、だからこそ今現在、注目されているのだろう。

文・小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。