INTERVIEWSSeptember/02/2015
[Interview]スヴェン・ハンセン=ラヴ – “EDEN/エデン”

 エレクトロミュージックが台頭した90年代フランス、ダフト・パンクやスターダスト、カシアス、ボブ・サンクラーなどの世界的ヒットを経てフレンチ・タッチムーブメントがパリを覆っていた。そんな最中、ガラージ・ハウスを中心にキャリアを重ねたDJスヴェン・ハンセン=ラヴをモデルとし、主人公ポールのDJとしての夢、成功、そして挫折を、実体験を元に描く映画『EDEN/エデン』が2015年9月5日に新宿シネマカリテほか全国順次ロードショーとなる。

1509020601
©TadamasaIguchi


 監督を務めたのは、以前女優としても活躍し、イギリスの「ガーディアン」紙で、フランス映画の新しい流れ、「フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ」の一員として注目されるミア・ハンセン=ラヴ。『あの夏の子供たち』(2009)、『グッバイ・ファーストラブ』(2011)に続く長編4作目となる今作では、兄であるスヴェン・ハンセン=ラヴと共同で脚本を執筆している。

 本作では、スヴェンによる実体験(=当時の音楽やパーティシーンなどの事実)とフィクションとが織り交ぜられており、当時の人々の音楽に対する興奮と熱気、登場人物の心境を等身大に感じ取ることができる。また、劇中のサウンドトラックは当時の音楽シーンを感じさせる選曲であり、特にダフト・パンクの楽曲は劇中にも描かれる彼らの誕生とその後の絶大な人気を示唆している。

 DJとして邁進したスヴェンであるが、劇中にも描かれるように現在は文学の道へと向かっているそうだ。彼が半生を捧げた音楽への思い、成功と挫折という人生のテーマ、また、どのような思いで本作の共同脚本を手掛けたのか、6月に開催された「フランス映画祭2015」に合わせ来日したスヴェンにインタビューを試みた。

__自身の人生を描いた映画をつくろうと思ったきっかけは何ですか。

まず、これは僕の人生の物語ではなく、その当時の若者と、90年代のはじめにフランスでエレクトロミュージックが生まれたことを描いたものなんだ。ただ、それをそのまま描いても、それは単なるドキュメンタリーになってしまうから、フィクションにするために人物を通して、物語を描きたかったんだ。そして、その人物は僕からインスピレーションを受けた登場人物であったというだけで、自分の人生そのものを描いた物語というものではないんだ。

__20年間DJとして活動し、過去を振り返った時、自身の音楽活動にあれだけの情熱を注ぐ原動力となったものは何だと思いますか。

それは、まさに音楽があったからであり、僕はエレクトロミュージックに出会い、より正確に言うとガラージミュージックに出会い、そのガラージミュージックにまるで人間に恋するかのように、恋に落ちてしまったんだ。その後エネルギーと情熱をかけてDJという仕事ができたのも、この音楽が大好きだったから、というこれだけなんだ。

__フレンチ・タッチというムーブメントを描く中で、DJやクラブミュージックシーンにおける、当時のフランスの若者特有の志向や衝動の特異性は何だと思いますか。

今は経済危機だとか、テロだとか未来に対する不安があるけど、その当時の若者というのは、のんきな雰囲気があって、楽しくて、未来に対する不安もあまりなかったんだ。そういう若者達にとって、どちらかというと楽観的なフレンチ・タッチがすごく合っていたんだと思うよ。

__映画の中では成功してゆくダフト・パンクの姿を克明に描いていますが、DJとして活動していた当時の心境はどのようなものでしたか。

僕は彼らの成功を見ていて嬉しかったし、彼らと友達であったから、そのことに関しては全然問題ないんだ。よく「嫉妬をしましたか?」とか聞かれるけど、そんなことは全然ないよ。というのは、彼らの音楽を聞いて、目指す音楽の方向性が自分とは違うということがすぐ分かっていたからね。だから、彼らの成功には満足していたし、彼らの音楽には有名になる前から良いオーラを感じていたから彼らが成功するのは明白で、自然なことだと思っていたよ。

__次世代のヨーロッパ、フランスの音楽シーンにはどのような期待を抱いていますか。

現代は昔と違って、パソコンなどによって家でより自由に音楽に触れるような時代がきているから、そういう中から今後素晴らしい若いアーティストが沢山でてくることを期待しているよ。例えば、フェリックス・ド・ジヴリ(ポール役)も音楽レーベルを持っていて、そこにいる若いアーティストの音楽を聴かせてもらったけど、そこには若い才能が沢山あると感じたよ。

15090206_3
©TadamasaIguchi



__映画に描かれる成功と挫折という人生における普遍的なテーマは、誰しもが自己を投影しやすいものだと思ったのですが、これからの若い世代に対して映画からどのようなことを汲み取ってほしいですか。

人生の方向性ということについて感じてもらえたらな、と思う。やはり、若い頃は情熱があるからそれに邁進してしまうけど、そこから一歩引いて自分の将来がどうなるかっていうのを考えてもらいたいな。それと同時に、お祭り騒ぎをして遊ぶことは行き過ぎだから、そこまで行き過ぎない真ん中あたりの人生を歩んで欲しいかな。確かに若い頃は、こういうことを考えないんだけど、将来についても何か考えるようなきっかけになればと思う。

__映画の後半部分では、結婚し家庭を持ち始める周囲の人々と、時代に取り残されたDJとしてのポールの状況を痛切に描いていましたが、彼は最後まで孤独ではなかったのは何故なのでしょうか。

確かにこの映画の中でポールが一人でいるシーンはほとんどなくて、一人でいるのは最後のシーンだけなんだ。ここでは、一人になって孤独であるとか、孤独に苦しむとかネガティブなことを表現したいのではなくて、彼が一人になった時にようやく自分について考えることができるようになったということなんだ。今までが自分がやってきたことについて振り返って、前に進むことについてきちんと考えられるようになったというように描いているんだ。

__ポールがロバート・クリーリー『The Rhythm』の詩を読む最後のシーンがとても印象的でしたが、この詩への思い入れを教えてください。

この詩は映画ととても合っていると思ったんだ。この詩はリズムについて語っているし、この詩人は僕の妹もすごく昔から好きだったので、この映画の中に入れることができて良かったと思っているよ。

15090206_2
©TadamasaIguchi



__劇中のポール同様、ご自身も現在は文学の道へ進むことを決心されましたが、DJでの知識や経験、挫折の体験は自身の文学作品にどのように影響していますか。

直接的には役には立っていないと思うけど、昔から小説を書くことには挑戦したいと思っていたんだ。その時は人生経験も少なくて書く時期ではないと思っていたけど、成功や挫折という人生経験をしたことは、文学作品には役に立ったと思うよ。だからといってDJのことについて書いているつもりはないから、直接的ではなく間接的に役に立っているんじゃないかな。

__歌詞があるように音楽にも言葉や物語性がありますが、音楽と文学の共通項はどのようなものだと思いますか。

確かに共通点はあると思うけど、音楽の方がより非具体的で、聴く人によって想像する物語は違ってくるんじゃないかな。音楽が何かを語っているという点では共通している部分はあるけど、文学よりも具体性には欠けるかな。

__小説や脚本を執筆する際には、どのようなものからインスピレーションを受けますか。

チリ出身のロベルト・ボラーニョという好きな小説家がいるんだ。それと、人々から人生の中で起きたことについて聞くのは大好きだから、これが元になることもあるけど、僕が本当に書きたいのは、想像、イマジネーションの物語なんだ。

__10代の頃から、すでに文学と映画に興味があったそうですが、現時点で文学、映画どちらも創作されたということは、原点に立ち返ったというでしょうか。

その通り、本当にやりたいことに戻ってきたということになるね。そこに真摯に向き合えるようになるためにも、自分が辿ってきた色々な人生の過程は必要であったと思うよ。

__文学を選択した現在、ガラージに対する情熱や思いはDJ活動中と比べて変化しましたか。

たしかに昔よりは情熱は減っているし、ガラージは過去の音楽になっているとも思う。でも、DJは今もやっているし、踊れるエレクトロミュージックは大好きだよ。ただ、今情熱は執筆の方へと向かっているんだ。

__この映画では“時代の流れとその変化”というものの中で生きる人々が描かれていますが、今も後もこれだけは変わらないというような自身の思想や生き方はありますか。

よく友人と「人って変わるのかな?」とか話すんだけど、僕は、人は変わるのではなくて進化するのだと思う。人は進化するけど、それぞれの根本にあるものは変わらないんじゃないかな。まわりの時代が変化することによって人が進化しても、根本は変化しないと思う。

__職業というかたちでなくても、今後DJを続けていきたいですか。

職業という面で言うと、まだDJで稼いでいるから、実は今もDJは仕事なんだ(笑)。でも自分の中では、文学だけに集中できる方向に進みたいと思っているよ。

(2015年6月27日)


インタビュー・文:佐藤里江
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。主にアート、映画分野を得意とする。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

kyohan_rafu_2

■作品情報
EDEN/エデン
2015年9月5日より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラヴ
共同脚本:スヴェン・ハンセン=ラヴ
撮影:ドニ・ルノワール
製作:シャルル・ジリベール
出演:フェリックス・ド・ジヴリ、ポーリーヌ・エチエンヌ、ヴァンサン・マケーニュ
2014年/フランス/カラー/131分/DCP/シネスコ/ドルビー5.1ch/PG12
原題:EDEN
字幕:斎藤敦子
字幕監修:梶野彰一
提供・配給・宣伝:ミモザフィルムズ
宣伝協力:ELECTRO89
サウンドトラック流通:Rambling RECORDS Inc.
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協力:ユニフランス・フィルムズ

© 2014 CG CINEMA – FRANCE 2 CINEMA – BLUE FILM PROD – YUNDAL FILMS