INTERVIEWSAugust/24/2015

[Interview]tomad × Wada Mizuki / Miii – “MaltineBook”

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 日本のネットレーベルの代表として、そしてインターネットカルチャーの最先端として活躍を続けてきた〈Maltine Records〉が2015年を持って10周年を迎えた。それに併せて発表されたのが、去る8月2日に代官山UNITにて開催されたイベント「天」、そして、カタログナンバー[MARU-100]を飾る書籍、「MaltineBook」のリリースだ。主要なアーティストのインタビューから、〈Maltine Records〉の一つの柱といって過言ではないパーティー「Lost Decade」のメンバーたち(tomad、DJ WILDPARTY、tofubeats、okadada)による対談、様々な関係者によるコラムと言った文章面での充実さは勿論のこと、過去に行われてきたパーティーレポート、グラビア(!)、極めつけにはマルチネに関係のあるアーティスト10組による特典楽曲集等、10年目に相応しい豪華な内容となっている。

 UNCANNYでは、〈Maltine Records〉の主宰であり「MaltineBook」のチーフディレクターを務めたtomadと、本サイト『UNCANNY』でも活動し、「MaltineBook」では記事のインタビュワー、編集を務めた和田瑞生による対談を行った。10年という節目に見る、現代社会の音楽とインターネットの在り方についての考察を是非ともご覧頂きたい。

__今年の頭くらいから、一緒に本を作らないかってお話をtomadさんからいただいたんですけど、そもそも、tomadさんはいつ頃から本を作ろうと考えていたんですか?

去年の5月5日に「東京」っていうイベントを行ったんですけど、それが終わって、じゃあ次は何をしようかと考えた時に、「そういえば来年は〈Maltine Records〉設立10周年じゃん」って気がついて。で、何かしら10周年らしいことをやった方が良いんじゃないかって考えが漠然と浮かんできて。それで、折角だから今までの〈Maltine Records〉での活動を本にしてまとめてみようと思ったのが去年の8月頃ですね。

__元々「東京」はかなり気合いの入ったイベントだったじゃないですか。だからそっちに気を遣い過ぎて、来年は何も出来ないかもしれないって話をした気がするんですけど、そこから本を作ってみようということになって、今回「Switch」のご協力の下で動き始めたんですね。

そうですね。最初は自分でやろうかなと思っていたんですけど、まずお金がないっていうのがあって(笑)。あと、僕一人だと本格的に出来ない可能性もあったので。誰か外部で協力してくれる人がいないかなって思っていたら、丁度「Switch」の猪野さんという編集者の方と話す機会があったんですね。それは、別の雑誌を手伝って欲しいっていう話だったんですけど、その時に、「来年の10周年に向けてマルチネ本を作りたいと思ってる」って話をして。そしたら猪野さんが「やりましょう」と言ってくださったので、そこから徐々に始まっていったっていう感じですね。それが確か去年の12月位かな。

__猪野さんは編集にあたって本当に全面的に見てくださって。アグレッシブな方ですよね。

最初に会ったのは確かソーシャルカルチャーネ申1oo特集の時でしたね。その後に「Switch」で連載をしないですかって話があって、それから継続的に付き合いが始まったという。それで今回の話に繋がったっていう感じですね。

__結果としては、手に取っていただけたら分かると思うんですけど、まあ散らかった内容の本になったじゃないですか(笑)。最初からこういった形の書籍を想定していたのですか?

最初はいくつか方向性があって、もっとアートブックというかグラフィック多めな感じにしたいという話をTamio(GraphersRock)さんとしていたんですけど、会議をしていくうちにあまり無茶はしない方向でいこうと徐々に丸くなっていって、結果として、今の形に収まったって感じですね。

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__元々〈Maltine Records〉はグラフィックに強いレーベルでもあったと思うのですが、そこからインタビューを挿入したり、コラムや楽曲レビューが入ったりして、結局絵と文字要素と半々位になったんですよね。そのタイミングで僕にお声掛けいただいた、という感じだったような。

企画の段階でマルチネからリリースしたことのあるアーティスト15人ぐらいにインタビューをやろうって話があったんですが、これを1人で回すのはすごく孤独で辛いなと思って。あと、建前上レーベルオーナーがアーティストにインタビューするっていうのもちょっと違うんじゃないかと思って。で、Miii君が『UNCANNY』とかで活躍していたので軽い気持ちで頼んでみたら、結果としてMiii君がメインの質問者みたいな感じになっていきましたね。

__お声掛けいただいてありがとうございます。最初は僕もインタビューされる予定だったんですが、作っていくうちに我が出てきたから別に要らないかな、って(笑)。アーティストに僕が自分の思想を語る、という結構いびつな部分も出てきてしまっていますよね。

逆に14人のアーティストとの対談を通して自分が分かっていく、みたいなストーリーになっている(笑)。

__インタビューをやっていてすごいなと思ったのが、全員に話を聞きに行ったんですけど、やっぱり一人一人考えてることが違うんですよね。例えばbanvoxは相当な覚悟でやってるし、今注目されているからとりあえず頑張ってみよう、というポジションの人もいる。インタビュー特集を作っていく上でそういったそれぞれのポジションが分かってきて面白かったですね。

メジャーレーベルに所属しているアーティストとかはやっぱり、音楽にフルタイムで専念していく、みたいな人が多いと思うので、音楽をどう続けていくかということに対して、ここまで多様な考えにはならないと思うんですよ。そうではなく、ある意味で音楽に関して中途半端な状況の人も含んでいるので、グラデーション的に向き合い方が分かるのかなという。

__それでも皆良い曲を作るし、自然にやってたらこうなっちゃったっていうのも分かる内容になっていると思う。対して、Lost Decadeメンバーの対談は、皆色んな現場経験を重ねているだけあって、深い内容でしたね。あの対談も結局2時間くらい喋っていて、相当な部分カットして、ようやく8ページとかに納めたんですけど。トーフさんとか絶対他のインタビューでは喋らないでしょってことまで喋ってたし。あとヤバいのが、syemさん(〈Maltine Records〉の設立メンバー)のインタビューに、何故かokadadaさんが顔を出している(笑)。インタビューページの一枚目からそういうことになってしまっているのが面白い。

そう、丁度Lost Decade対談の後にsyemのインタビューを録ることになってたから、okadadaも暇だし一緒に行こうということになり。

__渋谷のベローチェで録ってたんですけど、okadadaさんにトーフさんから連絡がきて、その後合流してきて。もう何のインタビューなんだか分からない(笑)。

あっ、tofubeatsがウテナについて語っている下りがすごく良かったので、ここは注目してください。

__インタビューの体は全く成してないし深堀りもしてない、というかそもそも深掘り出来る深さが無い(笑)。そこに集まってる人皆馬鹿っていう(笑)。ロスディケ対談の方は割とまともに喋ってるんですけど。そう、今回はこのロスディケ対談がキーになっているというか、ポイントになっていますよね。本の要旨はここで大体語られているというか。

俯瞰しているというかね。

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__〈Maltine Records〉の在り方についての部分も語られているし。今回、tomadさんが一番苦労した部分って何ですか?

okadadaと東京女子流の新井ひとみさんのグラビアは企画の段階から慣れない要素が多くて大変でしたね。主に僕が新井ひとみさんとokadadaのスケジュールを調整しつつ、スタイリストやカメラマンと衣装を相談したり、リムジン業者に電話で手配したり。で、このお台場の撮影場所も前日に下見をして、都内の各所を車で回って、ここにリムジンを停めるっていうルートを設定して。なんかこう、一番計画含めて力を使った場所ですね。グラビア撮影とかあまり慣れてないので……。

__慣れてないっていうか普通やらないでしょ(笑)。じゃあ、つまりディレクションなんかも全部tomadさんがやってるってことですか?

スケブリさんやTamioさんに協力してもらいながらですが、主にはそうですね。シチュエーションとか決めたりだとか。

__手動かすところ以外全部やってるんですね。まず、okadadaさんがグラビア映えするっていう発見が大きいですよね。結構前からファンも多いし、色気もあるし。

そうですね。それをちゃんとやってみたらどう受け止められるんだろうっていう挑戦みたいなところもあります。

__先日共演したときも、DJ終わった後okadadaさんが汗だくになっていて(笑)。

自分で踊ってるからじゃないですかね。

__玉城ティナさんの方のグラビアはどうだったんですか?

玉城さんの方はもう、そもそも受けてもらえるとも思っていなかったので、受けてもらえた時は驚きでした。純粋に僕がファンだったので。それと同時期にtofubeatsの楽曲のボーカルが決まったというのも驚きでしたね。

__いやあ、10年やってて良かったですね。このhatraのパーカーも特注ですか?

そうです、今回のために作ってもらいました。今のところは非売品なんですけど、まだ未定なんですが好評だったので数着売るのもいいかなと勝手に考えたりしてます。

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__10年のタイミングで過去を編纂するって良い区切りだと思う反面、インターネットってデータを記録されていると思いがちだけど多過ぎてどこにあるのか分からなくなるってこともありますよね。

そうですね。ハイパーリンクなので無限に繋がっていくから、むしろ区切りが分からなくなるんですよね。

__今回の本にしていく作業って、逆にその繋がったリンクを断ち切っていく作業に近いかなって感じがして。自分で作業をしていても、ここからここまでがそうであるなら、逆にここからは違いますよっていうのをずっとやっていってる様な気がしました。どこを入れてどこを落とすかっていう。物量的に紙には限界があるから。そもそも何故本にしようと思ったのかっていうのはありますよね。やっぱり、本ってお金が発生するし、資本が動くじゃないですか。何だか、危うい存在というか、編纂する時点で全部が嘘になる怖さとかもあると作っていて思ったんですね。

そうですね、まず、領域を区切るっていうことが重要かなと思って。あとは、〈Maltine Records〉についてまた考え直すというか。10年やってきたけど、割と誤解が多いレーベルなので。で、それをまたインターネットで書いたりすると、それもそれで誤解が生まれるっていう(笑)。だから、あえてオフラインのところで書こうと思って。分かる人にだけ分かって欲しいというか、本当に興味がある人は買ったり立ち読みしたりだとかすると思うので、そういう人に思いが伝わって欲しかったというか。あとは自分自身で、〈Maltine Records〉とは何なんだろうっていうところを悩むことが部分が最近は多くて。それで一度整理し直そうかな思ったっていうのもありますね。

__例えば、〈Maltine Records〉は「東京」だとか「天」だとかのイベントをずっとやってましたけど、あのイベントを見た人はあの風景が〈Maltine Records〉だと思うと思うんですよね。でも昔から見てる人は多分もっと違うところに〈Maltine Records〉があると感じると思うし。多分最近一番苦しんでいた部分ってそこの、昔と今の繋ぎ合わせというか、新しい人を取り入れながら全体像を見せるという作業を腐心してやっているなっていう印象はありました。

でも、しんどさみたいなものはそこまでは感じないですけども、ファンの濃度の差みたいなものはあると思いますね。簡単に今流行りの面子を集めたライトなやつだけも出来るっちゃ出来るんですけど、それはやりたくないなっていうか、面白みが無いなって言う部分があって。なんかこう、無理をして濃さを足していこうっていうのは無くて、ここでしか絡めないという面白味の要素として昔からのアーティストを入れて、っていう方が大きいですね。

__じゃあもう普通にアクセントとして、あんまりライトに行き過ぎないっていう意味でってことですよね。

そうですね。〈Maltine Records〉からリリースした面々は他のイベントにも沢山出たりしてるので、そういう所で聴いてもらえる機会もあるので。

__tofubeatsさんの今回の「天」のライブとかも、dj newtownの曲だったり、本当に昔の曲ばかりやっていて。凄いな…って思いました。tofubeatsさん達にとって、振り返られる場所があるっていうのは大事だと思うし、それが今回の本の制作によって更に強化されたというか。帰る場所みたいな感じになりますよね。

でもなんか、そんなに帰る場所みたいに暖かく迎え入れたくもない部分も心の奥底にはあるので(笑)。でもまあ、場所的なというのは間違ってないですね。

__今回、その辺りを語ることの難しさっていうのを表しているのが、後半の上妻世海さんの1万字のコラムだったりとかだと思うんですけど。やっぱり外の人間に執筆をお願いするのはかなり重要だったんじゃないかと思っていて。というのも、中心から見て分からないことは外から見て固めていくしかどうしようもないと思うし、そういう点ではインタビューも重要で、コラムも昔から見てくれていた人とか、フィジカル的に関わってくれた人とか、色んな側面で物事を見てくれる人が、文字やコラムを出してくれたっていうことでクリアに見えてくる反面、なるべく語られない部分が無いような人の選び方というか、秋葉原MOGRAのD-YAMA店長のような人から、Lil $egaくんまで幅広い人の選び方をしたっていうのは今回重要だったと思っていて。真ん中が無いところから、それを外から固めていくっていう部分も〈Maltine Records〉らしいのかなって思いました。

まあ、ある程度外側の人から見てマルチネがどういうものなのかっていうのを書いてもらいたかったですね。さらに僕としては〈Maltine Records〉というフィルターを通してこの10年間がどう見えたのかっていうのも感じて欲しいです。

__そういうと、カルチャーの話なんかも10年間を語る上では重要ですよね。中でもSeapunkやVaporwaveの話だったり、ブレイクコア時代の話なんかも出てきますし。

そうですね。且つ、インターネットレーベルなんで、インターネットに寄り添った文化が中心に書かれていると思うんですけど。あんまりそれを誰も書籍でまとめていないんですよね。最近あったとすればMASSAGEとかだけど、あれはむしろワールドワイドな方向にまとめていると思っていて。ドメスティックな方向にまとめている本が無かったので、それをやりたかったっていうのはありますね。

__確かに、インターネットって環境的に語られることはあっても、それを文化として語る永続的な本って中々無いですよね。雑誌ならあるかもしれないけれど。そういう意味では貴重な資料ですよね。

ばるぼらさんが書いた「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」という本があって。2005年ぐらいのインターネットのサブカルチャー的な部分はあの本で語られてたりするんですよ。フラッシュとかまでは。でもそれ以降は、細分化され過ぎたっていうのもあると思うんですけど、それを誰も全体として語れない所もあって。なのでそれを少しでも、〈Maltine Records〉っていう名前を借りて、透けて見えるようにしたかったなっていうのはありました。

__今回面白かったのは、「Maltinebook」で語られる範囲がマルチネの中の話だけにとどまらないというところ。例えば、日本のインターネット史の最近のカルチャー本としても通用するし、そういった意味では1つの文献になったんじゃないかと思います。ニコニコ動画登場以降、TwitterやFacebookだとかのインターネットの使われ方を見てると、一本のまとまった歴史としてそれらを見ることって凄く難しいんじゃないかと思っていて。

そうですね、結構ぎりぎりの臨界点というか、多分今年出せなきゃもう出せないと思っていたのもあって。インターネットのカルチャーというものに特殊性が無くなってくる最後の10年間というか…それを記録しておきたかったっていうのはありますね。

__最近、ウェアラブルデバイスやIoT(Internet of Things)によってどんどんインターネットというものが血肉に近付いてくるというか、どんどん純粋なインフラに近づいていくような気がしているんです。すると、例えば現実だと学校の中に居場所がなくても、インターネットの中では人気者、みたいな第二の居場所としてのネットが無くなってくるんじゃないかという気がしていて。

むしろリアルから抜けだした別の居場所だったインターネットでの居場所に苦しむみたいな。(Twitterの)サブ垢みたいな感じかな。

__そう考えると、やっぱり今語らないと、逃げていきそうな気がしますね。中にはポスト・インターネットっていう言葉も出てくるんですけど、一応〈Maltine Records〉ってインターネットレーベルっていう定義じゃないですか。インターネットレーベルとしては、今後はどういう動きをしていきたいとかありますか?

なんかこう、最近はインターネットレーベルだからなんだってことはあまり思っていないんですけど、ここで定義を外すのもあれかなと思って。いろいろなものに示しがつかないな、というか。でもどちらかというと、もし区分が無くなったとしても、リアルよりはインターネットの方に立っていたいなっていう気持ちはありますね。だからといって何かがすごく変化するってわけではないですけど。まあでもリアルだけの話ではないっていうのは重要だと思いますし、融合したとはいえ、インターネットから始まる物語っていうのもあると思いますし。かと言って、現在でも渋谷のクラブから始まる物語もあると思いますし。でもどちらかと言えば、インターネットから始まる物語の方に寄っていきたいなと思ってるぐらいですかね。そこがロマンみたいな(笑)。

__僕もインターネットの居場所的な、空間的な側面が好きで、でもリアルもそれはそれで良いものと思っているし。僕は多分、ネットと現実を別に捉えている人間なんですよ。結構、リアルで喋るときとインターネットで喋る時では話し方も全然違うし、どっちも尊重したいし。そういう点では、やっぱり〈Maltine Records〉の在り方ってしっくりくるんですよね。イベントはイベント、リリースはリリース、フィジカルはフィジカル、みたいな。たまにインターネットの有象無象みたいなものがコンテクストの一部に出てくるとか、『MP3 killed the CD star?』のようなCDリリースという形で浮き出てくるとか。インターネットの視界の奥に〈Maltine Records〉がぼんやりと見えているっていう今の在り方がすごく良いと思うんです。そういう意味では今後概念的な成長があるんじゃないかと思います(笑)。

成長…ただ、より分かりにくいものにはなると思うんですよね。

__〈Maltine Records〉から抽出した一部分が分かりやすくなったとしても、実際にある〈Maltine Records〉の根幹みたいなものはどんどんと意味の分からない進化を続けるんじゃないかと思います。

いや、勝手に進化はしないと思うんですよ(笑)。ただ思うのは、これ以降はテロリスト的な動きというか、よりハードコアな感じになるんじゃないかと思ってますね。今まではインターネットの祝祭感みたいなものがあったと思うんですよ。それが無くなっていくというか。なので、その両方を合わせた空間の中でマルチネは更によく分からないルートを辿っていくだろうなっていう。

__多分実物見ないと分からないですよね、ここから先は。与り知れない部分はありますよね。

好きなものを出していくというか。それで良いんだとも思います。前は結構流行に寄せたりとかもしてたんですけど。

__寄せるのはしばらくはいいや、みたいな。

なんだろう、今後はあまり全体的なブームがないだろうし。

__今後、ジャンルのブームとかも無くなりそうっていう話も本の中でありましたよね。

まあ分からないですけどね、現状がゼロになっているだけで、逆に第二のインターネットが生まれるみたいなこともあるかもしれないし。

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__話し変わるんですけど、最近本って何読んでます? こういう新書って雑誌とかじゃないと中々買わないじゃないですか。

僕は大体哲学書が多いですね。まあでもこの本をやってるときとかはテリダを読み返したりして。ちょうどデリダが「本」について書いてる本(パピエ・マシン)があるんですけど、そこには出始めたばかりのインターネットについてのことも書いてあるんですけど、ネットサーフィンをしていたら行き先が分からなくなっちゃう、みたいなことが書いてあって妙に本を作ってる間に共感してましたね。

__今って、皆行き先が分からなくなってるじゃないですか。それこそ、ネットサーフィンっていう言葉が現役で生き残ってた時の人って多分どんどんと行き先が分からなくなってると思うんですよ。曖昧な言い方なんですけど。現に僕がそういう傾向なんですけど(笑)。今ってミニマリズムというか断捨離が流行っていたり、部屋のものを極力減らすとかあるじゃないですか。それって、行き先が分からなくなってるインターネットと対照して、生活の動線をハッキリさせようとする流れからきてる様な気がするんですよね。だから、例えば昔は紙が大好きだったのに今はそれも鬱陶しい、何故なら情報量が多くて撹乱されるから、みたいな時代になって来てる様な気がするんです。これは本当に自分の感覚なので違うかもしれないんですけど。

まあ単に情報が増えてるから、それが鬱陶しいって話で。今までは処理出来ていたけど、身体的にも限界があると思うので。だからそれを減らそうっていうのは分かります。なんかWada Mizukiの思想を聞いているみたい(笑)。

__(笑)。だからそれに抗う形で、完全に僕の話なんですけど、筋トレをして身体を鍛えて自分を律することに喜びを感じるフェーズにきてるんですよね(笑)。今ってインターネットとリアルがどんどん混ざって来てるじゃないですか。でもそれらが混ざる前の僕たちって多分人格がネットとリアルで分離してる部分が少なからずあって。だからといって、今から人格を変えるのは無理だから、そこに抗う為に身体を鍛えてリアルの自分を律する、という。今の結婚ブームとかもそうじゃないですか?

それは多分マルチネの年齢層が上がったからじゃないですか? 健康ブームと結婚ブーム(笑)。あと、青春時代に鍛えなかった分、その反動で今遅れて来た青春が身体を鍛えるという形で戻って来たとか。

__大人になっただけなんですかね(笑)。ずっとインターネットの世界にいてやって来た人ってどこかでそういうのもちゃんと取り戻さなきゃってなってるんだと思うし、それって悪くない流れですよね。頭でっかちになってるのはやめようってなるのは良いことだと思うし、10年ってそのくらいの重みがあると思うし。

まあ、結婚とか良いんですけど。なんかその方向に普通に収斂するのも面白くないなというのもあり。

__じゃあもう、第二のインターネットを探すしかないですね!

そういうことでもないと思うんですよね(笑)。

(2015年8月10日、渋谷ルノアールにて)


Maltinebook

SWITCH特別編集号 MaltineBook
2015年8月20日発行
2,376円 (うち税 176円)
MaltineBook 特設サイト
SWITCH公式サイト

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MUSIC DOWNLOAD 10周年記念アルバム V.A.- BUNDLE OF JOY [MARU-100DL]
三毛猫ホームレス/Syem/Avec Avec/PARKGOLF/bo en
/Yoshino Yoshikawa/madmaid/okadada/tofubeats/MEISHI SMILE

インタビュー・文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

構成・アシスタント:成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。