EVENT REPORTSJuly/13/2015

[Event Report]TAICOCLUB’15 at KODAMA NO MORI

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(photo: Koji Tsuchiya)

 2015年5月30日、31日の二日間、長野県木曽郡木祖村の信州やぶはら高原こだまの森にて、国内外の幅広いアーティストがパフォーマンスを行う野外音楽フェスティバルTAICOCLUB’15が開催された。今年のTAICOCLUB’15では、特設ステージ、Red Bull Music Academyステージ、野外音楽堂の3つのステージが用意され、国内外から総勢35組のアーティストが集結、こだまの森の壮大な自然に映えるパフォーマンスを披露した。

 東京駅出発の高速バスに乗り、諏訪湖を眺めながら揺られること5時間、アウトドアの服装に身を包んだ人々が、大きな荷物を背負い嬉々として山中に向かう。現地に着き、周りを眺めると、テントを組み立て終わってわくわくしている人が多くいるようだ。こだまの森をゆったり散歩しながら自然を堪能する人、そして歩いて10分程の距離で分けられた3つのステージでは、最前列でわいわいと踊る人も居れば後ろでリゾートチェアに腰掛けてゆったりと演奏を聴きステージを眺める人もいる。TAICOCLUBの魅力はまず、一概に音楽フェスと言ってもTAICOCLUBの楽しみ方に人それぞれ様々な選択肢があることだろう。

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(photo: Koji Tsuchiya)

 梅雨入り手前で時に雨にも見舞われたが、初夏の香りが漂う信州の山は少し涼しく、真夏の音楽フェスよりずっと過ごしやすい空間であった。会場全体が広過ぎないので移動がしやすく、自然の中を歩く際に遠くで聴こえるような心地良い音がどこでも聴こえる。そのため、例えテントで寸暇を楽しんでいる最中でも音楽のある場に戻ることができる。招集されたアーティストたちの演奏には変な暑苦しさも不安定感、物足りなさもなく、そこにははっきりとした存在感や安心感があった。観客も、盲目的に感情や勢いに任せて騒ぐのではなく、その壮大な自然と音に集中し、名前も知らない周りの音楽好きと共に思い思いに身体を揺らしていた。規模が大き過ぎないからこそひとりひとりが余裕を持ってしっかりと楽しむことができる、まるで大人の隠れ家のような空間であった。

・BOREDOMS
 昼間はなんとか晴れていたものの、17時を回ると空は雲に覆われ小雨がちらつく。そんな不穏な天候とともに張りつめた空気の中、BOREDOMSの演奏がスタートする。結成当時から実験的なアプローチで異彩を放っていた彼らだが、結成20年を迎えてもなおその勢いは衰えず、貫禄あるライブで観客を魅了した。例年、専用で組まれた特設ステージでは回転櫓など毎度観客の度肝を抜いている。2001年からV∞REDOMSとしてドラム3台とDJの4人で円く輪を組み演奏するという形態をとっていたが、今回はシンバルやギターのメンバーを加え総勢35人によるパフォーマンスを披露。複雑で荒々しく、無秩序かとも思えるリズムだが、一向にずれることの無い息の合ったメンバーのドラムラインとルートを刻むベースラインを幹として、壮大な広がりを見せるサスペンドシンバルや民族楽器とも言えるような音色のギターが、メンバーのEY∃によるまるで音を操っているかのような指揮によってドラムに乗せられる。35人、ひとりひとりが発する音の塊から生まれるノイズミュージックに観客は引き込まれていった。

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(photo: Koji Tsuchiya)

・ROBERT GLASPER EXPERIMENT
 気付けば日が落ちて、空が紺色になりかけている。大勢の人で賑わう中、ROBERT GLASPER EXPERIMENTが始まった。2012年にアルバム『Black Radio』で第55回グラミー賞最優秀R&Bアルバム賞を受賞した彼らの演奏は耳の肥えた音楽好きを見事に圧巻するものだった。Mark Colenburgの粒の細かい複雑なビートに合わせて、自由で難解な、しかし美しい旋律をRobert Glasperのピアノが奏でる。そこにDerric Hodgeのグルーヴィなベースが乗り、Casey Benjaminのボコーダーとサックスが遊び心を加える。2015年第58回グラミー賞にもノミネートされた最新作『Black Radio 2』より「I Stand Alone」「Big Girl Body」などで圧倒させながら、他にもDaft Punkの「Get Lucky」やFlying Lotusの「Never Catch Me」、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」など、日本でも有名なアーティストのカバーを自分たちなりの解釈でアレンジし演奏し観客を湧かせた。現場は、青や紫、ピンクの照明とともに雄大で幻想的な雰囲気が生み出されていた。

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(photo: WATARU KITAO)

・Autechre
 ステージのみならず、フードエリア等の照明も落とされてスタートしたAutechreは、一聴して彼等の音楽だと分かる無機質で複雑なビートで、「これぞAutechre!」というような安定感のあるライブを披露していた。20年以上第一線で活躍し続け、数えきれないほどのアーティストに影響を与えていながら、未だに掴みどころがなくアンダーグラウンドな存在であり続ける彼らのビートは、IDM好きのベテラン・リスナー大喜びの音であると同時に、UKのNight Slugs勢とも共鳴するような最新のクラブミュージックとしても十分に機能していたと思う。

・Clark
 日付が変わり始めた頃、特設ステージではClarkのプレイが始まった。Aphex TwinやAutechreと同じ〈WARP〉に所属し、昨年末に自身の名を冠したアルバムを発表、また今年3月にはEP『Flame Rave』を発表した彼だが、ブレイクビーツ的なアプローチもある堅い音ながら四つ打ちのキックと共にじわじわと会場を攻めていき、観客を熱狂させる。深夜の暗闇の中真っ白なライティング、VJとともに自身のストイックな世界観が垣間見れるようなパフォーマンスであった。

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(photo: Yoshihiro Yoshikawa)

・Yosi Horikawa
 夜も更けて来た頃、RBMA StageではYosi Horikawaのプレイが始まった。フランスのレーベル〈Elklektik Lecords〉から2008年にデビューした彼の作品は、サウンドスケープとも言えるような、自然やその情景が目に浮かぶような音楽。環境音や日常にある物音などの非音楽を録音して音楽を構築しているのだという。森の中、小さいテントの前に立ち並ぶ柔らかな光を放つ蝋燭、そこに映えるアンビエントの暖かい音が会場を包み込む。最前列でゆらゆら揺れながら音に集中する人、また後ろの方では椅子や芝生に腰掛けてくつろぎながら音を楽しむ人もいる。波のさざ波や風の音、囁くようなサンプリングボイスがゆったりとしたトラックに乗り、少しずつはっきりとしたビートが組み込まれていく。Nu Discoのようなミドルテンポのグルーヴが展開し、観客はその心地良い浮遊感に浸っていた。

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(photo: Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool)

・Marcel Dettman
 午前3時と開場から15時間が経ち少し冷えて来た真夜中、特設ステージではMarcel Dettmanがプレイ。テクノシーンにおいてトップクラスとも言われるベルリンのクラブBERGHAINのレジデントDJとして活動していた彼は、やはりフロアを見事に操っていた。少し疲れてきた観客を少しも逃がしたり、またフロアの熱を冷ましたりするようなことはせず、この深い時間にも身体が揺れてしまうミドルテンポの堅いミニマルテクノで観客をじわじわと揺らし、足を止まらせない。まるで催眠効果とも言えるようなミニマルなビートで観客を魅了し続けた。

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(photo: Ryuta Shishikura)

・Sugar’s Campaign
 もうすっかり朝日も上り、朝まで踊り続けているパーティー狂と、起床後すぐにステージを見に来たであろう寝起きのオーディエンスがフロアに入り混じった不思議な空間に登場したのはAvec AvecことTakuma Hosokawaと、SeihoことSeiho Hayakawaの2人によるポップユニットSugar’s Campaignだ。クラブシーンだけでなくJ-POPシーンまで賑わしている彼らのライブは、硬派なビート中心のクラブミュージック編、 あきおこと畑田啓太氏をボーカルに招き、1stアルバム『FRIENDS』からの楽曲を中心に披露したポップス編の二部構成で行われ、前半のストイックな音から一転し、後半は体操の時間やリラックスしたMCを交えながら多幸感あふれるステージが披露され、彼らの音楽性の引き出しの多さを存分に味わえるフレッシュなステージだった。

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(photo: YUKI MAEDA)

・Radio Slave
 ラストは、Radio Slaveのミニマルテクノに合わせて、10時まで踊り続ける。ランナーズ・ハイの一種とも形容出来る様な一線を超えた感情と体力を頼りに、その安定感あるグルーヴに身を任せ、日がてっぺんに昇るまで踊り続け、今年のTAICOCLUB’15のプログラムを最後まで十分に堪能し尽くしたところで、帰路へとついた。

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(photo: Rui Yamazaki)

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(photo: Rui Yamazaki)

取材・文: 成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属

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1990年生まれ、大阪出身。UNCANNY編集部員(非常勤)