EVENT REPORTSNovember/16/2012

【LIVE REPORT】 Hostess Club Weekender at Zepp DiverCity Tokyo – 11月4日(日) Thurston Moore / Local Natives / Efterklang / Pop Etc / Clock Opera

 3回目を迎え、早くも洋楽ファンにとっては見逃せない注目イベントになりつつあるHostess Club Weekender。1日目の11月3日(土)は、Dinosaur Jr.、Fucked Up、…And You Will Know Us by the Trail of Dead、The War On Drugs、Deap Vallyを迎えて、大盛況のうちに終わった様子。今回は2日目の11月4日(日)の様子をレポートする。

 1組目のアーティストはClock Opera。英ロンドン出身の4人組バンドで、今年<Moshi Moshi>からデビュー・アルバム『Ways to Forget』をリリースした新人だ。

 実際に音源を聴いてみた印象としては、今回も披露した「Once and for All」のPVを観ても分かる通り、ある意味ベタな楽曲展開、ケレン味たっぷりのボーカル、感動路線を強調した感じといい、個人的にはこのバンドはいずれ、Coldplayのフォロワー的位置づけに落ち着くのではないかと思っていた。実際、時計の針が回る音のSEからライブが始まったプログレ的演出や、エレクトロニクスの導入具合などといい、その影響源までおそらく同じだなと、ライブの序盤ではつくづく感じていた。

 だが、この日最後の「Lesson No.7」では、その印象も軽く払拭されるほどの、予想以上に肉体的で”踊らせるバンド”としての一面も見せていただけに、彼らの未来はおそらく2枚目以降にかかってくるのではないか、と全体的には感じたのだった。

 そして、2組目はPop Etc。ついこの前のThe Morning Bendersからの改名騒ぎや、それからリリースした2ndアルバム『POP ETC』でのR&B系ダンス路線へのシフトなど、今年はつくづくリスナーを驚かせてくれた彼らだったが、この日も本来のメンバー3人+サポート・メンバー2人を加えての5人(!)での演奏だったように、最初からちょっとしたサプライズを携えて彼らはステージに現れた。

 実際のライブはというと、1曲目は新作からの「Everything is Gone」で始まり、続く2曲目にはいきなりアッパーな「Back to Your Heart」を持ってくるなど、やはり全体を通して徹頭徹尾、R&B路線での演奏だった。個人的にはボーカルのChris Chuは、前作でのナイーヴな青年っぽい青臭い歌声のイメージが強かっただけに、新作を聴いてもヴォコーダーで加工しまくったソウルフルな歌声を、どこまでステージで再現できるのか疑問に思っていた。

 しかし、それも無駄な心配だったようだった。ヴォコーダーで加工は施しているものの、驚くほどステージでの彼は堂々として、ソウルフルな歌声が意外と板についていたのだ。若干、声自体も以前より太くなっていたのか、前作からの代表曲「Excuses」のアレンジ・ヴァージョンを披露しても、何となくしっくりこない感じすらしたほどだった。そう、今の彼らはThe Morning Bendersではなく、完全に”Pop Etc”として生まれ変わっていたのだ。

 そして、最後には「Yoyo」でChrisがフロアに降り、前列の観客とハイタッチ、手を振り上げ、一緒に踊り歌って、彼らのライブは盛況のうちに終了した。実際のところ、あまりの唐突な変化に海外では賛否両論ある新作のようだが、少なくともこの日の彼らは、フロアの心を掴むことには成功していたようだった。

 3組目はデンマーク出身のエレクトロニカ・バンド、Efterklangだ。今回が日本での初ライブとなった彼らは、先日4thアルバム『Piramida』をリリースしたばかりでの来日となった。今回は、基本メンバーのCasper Clausen(Vo.) 、Mads Brauer(electronics) 、Rasmus Stolberg(Ba.)の3人に、ソロでの活躍も注目されているマルチ・インストゥルメンタリストPeter Broderick、女性コーラスのKatinka Fogh Vindelev、ドラマーには何とあのThe Slits、Siouxsie and the Bansheesの元メンバーとして知られるBudgieを迎えての、6人での演奏となった。

 エレクトロニカに加え、ストリングスをフィーチャーした、Sigur Rosの諸作品にも似た感触を抱かせる壮大な作品だった『Piramida』が、海外ではオーケストラとの共演によって再現されることも多い様子だっただけに、今回はストリングス抜きでどのような演奏を聴かせてくれるのかというところが、注目していた点だった。

 実際のところ、これは凄いものを観たなというのが率直な感想だ。新作を代表する名曲だと思う「Hollow Mountain」が演奏されなかったのが唯一の心残りだったが、全体を通して音源と比較しても、全く不足を感じさせない熱演だった。

 Casper Clausenのエレガントな歌唱を含め、バンド自体の完成度はとても高かったが、特に一番驚かせられたのが女性コーラスのKatinka Fogh Vindelevだった。オペラ歌手並の歌唱力と声量で、コーラスの域に収まらない大きな役割を演じ、バンド全体を支えていた。「Sedna」での悲哀溢れる歌唱には、思わず胸を打たれるものがあったほどだ。まだほとんど無名に近い彼女だが、歌手のかたわらハンドメイド・ジュエリーを制作するなど才色兼備揃った美女といった様子。まだソロ作品は出していないようだが、これからの活躍を期待して損はしないだろう。もう1人のサポート・メンバーPeter Broderickも実に名脇役といった趣で主にキーボードを担当し、途中の「The Ghost」ではキーボードの前で軽快なステップを踏むなど、お茶目な一面も覗かせていた。

 そうして、最後を飾った前作からの曲「Modern Drift」では、途中ではCasper自らファンの手を取る場面もあり、初来日とは思えないほどのフロアからの歓迎を受け、終了。終演後もメンバーが前列のファンとハイタッチするために走り回るなど、畏怖すら感じさせるほどのステージとは対照的に、サービス精神旺盛な様子だった彼ら。心から再来日を期待したい。

 続いて4組目となったのが、Local Natives。デビュー・アルバム『Gorilla Manor』が各国で評判になり、2010年のフジロックで初来日し、新人離れした演奏力と、Fleet FoxesやGrizzly Bearらを彷彿とさせるコーラスワークで大いにフロアを沸かせた。以前から報じられていたように、現在彼らは来年のリリースに向けて、新作を制作中。そして、今回はほとんどが新曲中心のセットリストとなった。

 全体的な感想を言うと、今、彼らは徐々に変貌しつつある。1曲目の新曲から、その冒頭を飾ったもの悲しいキーボードの響きを聴いた時点で、これが本当にあのLocal Nativesだろうかと思わせられた。大まかに言うと新曲は全体的にミドルテンポで、悲しげなキーボードのイントロから始まる曲が多かった。そして、低音が強調され、ヘビーなベースラインが際立つ音像がとられていた。演奏自体も、序盤からとてもシリアスで鬼気迫る雰囲気で、今までの彼らの特徴だった西海岸特有のカラッとした空気感は、もはやどこにも感じられなくなっていた。アメリカよりも非常にヨーロッパ的な雰囲気を、その演奏からは感じた。「Wide Eyes」や「Sun Hands」といった人気曲も今回は演奏されたが、過去の演奏における軽快なアレンジよりも、エクスペリメンタルでヘビーなアレンジが重視されていた。

 結論としてまとめると、過去に比べて、演奏力やコーラスワークにおいても確実に磨きはかけられていたことだろうが、若干のエレクトロニクスの導入にも見られたように、今の彼らはGrizzly BearやRadioheadの後を追おうとしている印象が強い、というライブだった。確かに『Gorilla Manor』にもその片鱗を覗かせる曲はあったのだが、そこは彼らの出自たる西海岸っぽさと合わさることで逆に強みとなり、今までは彼ら独自の色に直結していた部分だった。2枚目以降の変化として考えると、やはりともいうべき変化だとも言えるが、今までのファンにとってはどのように受け取られたのだろうか。ともかく、浮き沈みの激しいインディーズ界においては、彼らの変貌がどのように受け止められるか、今後も注目していきたいと思った。

 5組目は、2009年のSonic Youthでのサマーソニック出演以来、3年振りの来日となったThurston Moore。去年、Beckと組んだソロ・アルバム『Demolished Thoughts』が高評価を持って迎えられた中、Kim Gordonとの離婚に伴う、Sonic Youthの事実上の活動停止によって、完全にソロ活動に移行するかと思われた。しかし、今年、突然のごとく新バンドChelsea Light Movingを結成し、さらにはブラックメタルバンドTwilightにまさかの加入を果たすなど、ファンとしてはその気の向くままの活動ぶりに一喜一憂させられた昨今だった。そうして、発表時にはThurston Mooreとしての出演だったが、実際はChelsea Light Movingとしての来日が、早くも今回実現したわけだったのだ。

 既にネット上において発表されていた新バンドの曲を聴いた限りでは、その感触は『Goo』や『Rather Ripped』、つまりSonic Youthにおいては一番ポップだった時期の曲に近く、それはすなわち、今も昔も基本的にやっていることはやっぱり変わっておらず、後半いきなりパンクバンドのようにテンポが速くなる展開の曲など、むしろ原点回帰している感さえ強かった。しかし、そのメンバー構成を見てみると、ベースには、過去のソロ・アルバムでも共演経験のある即興系バイオリニストSamara Lubelski、サイドギターとドラムには即興系バンドSunburned Hand Of The Manのメンバー、Keith WoodとJohn Moloneyがいるわけで、どうしてもアンダーグラウンド寄りの活動を期待してしまう面もあり、今回はその目でこのバンドを確かめる必要があった。

 そして、実際に観て感じたThurston Mooreは、やはり相変わらずだった。3年前にSonic Youthとして観た時と比べると、ギターの音は『Psychic Hearts』といった過去のソロ・アルバムに近い、より生々しいざらついた感触のものだったが、序盤で既に息切れしているほどの衝動感丸出しの演奏で、相変わらず下手ではあった(もはやこの人の場合は褒め言葉)。実際に演奏した曲も、上述した発表済みの曲に加え、Sonic Youth初期の名曲「Death Valley ’69」を彷彿とさせるコード進行から、いきなりメタルばりのゴリゴリのリフになる曲や、「Lip」という名のNo Waveっぽい雰囲気の曲、『Psychic Hearts』からの「Ono Soul」、さらにはひたすらノイズだけ出したあと、「Thank You」と一言だけ言って終わった曲など、どこまでも自分のルーツやスタイルに忠実な曲ばかり。新バンドとしての感想は、安定感のあるドラマーは良いが、少しThurstonの影に埋もれがちのサイドギターが寂しかった、という感じか (Samaraのベースが下手だったのはしょうがないとして)。

 しかし、やっぱりどれだけ今まで通りで、どれだけ潰れ切ったノイズを聴かせようが、それこそがThurston Mooreなのである。そのことを理解しきっていたこの日のフロアは、バンドがおなじみのノイズ合戦に突入し、彼がそのギターを乱暴にかきむしり、振り上げる度に、大いに盛り上がっていた。その盛り上がりぶりは、最終的にダブルアンコールにまで及んだほどだった。当のThurston自身も、この日は相当盛り上がったようで、最終的には3回ほどのノイズ・インプロを聴かせ、ステージ上からフロアにギターを向け、半分身を預けるような形になるまで観客に近寄り、しまいにはギターストラップを客に持ってかれてしまったほどだった (もちろんアンコール前に回収済み)。

 ここまで無邪気にひたすらノイズを鳴らし続ける彼を観ていると、こちらまで微笑ましくなるほどだったのだが、最終的に抱いた結論は、この人は基本いつまでもギターキッズなのだ、ということだった。Sonic Youthが活動していない今でも、ソロでの活動や、最近ではオノ・ヨーコとのコラボなど多彩な活動を行ってはいるが、本人は思う存分ノイズが出せるリーダー・バンドが無ければ、我慢できない性質なのだろう。「エレキ・ギターを聴くということは、ノイズを聴くこと」という持論通り、どれだけアンプラグド寄りのソロ活動で高評価をもらおうが、やはりノイズありきの人なのだ。

 そして、ここまでなんだかんだ言ってきたが、ダブルアンコールでの「Pretty Bad」からの流れで、Samaraがバイオリンを持ち出し、即興的なノイズドローンに突入していった時のThurston自身が放った、USインディ界の重鎮として会場を一変させる空気、圧倒的な迫力を持ったノイズには唯一無二の重みがあり、やはりこの先もその活動に一喜一憂していきたい存在なのではあった。振り返れば、変化を模索する出演者が多かった中で、確固として自分の道を歩むさまは、何とも頼もしい限りではなかっただろうか。たまに『Demolished Thoughts』のような名盤を出してくる辺りも心憎い。「来年3月には新譜を出し、望むなら4月にはまた来日したい」というようなことも言っていたので、今回見逃した方もその再来日を、首を長くして待っていただきたいと思う。

取材・文: 宮下瑠
撮影: 古溪 一道


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