ARTIST:

Tuxedo

TITLE:
Tuxedo
RELEASE DATE:
2015/3/3
LABEL:
Stones Throw
FIND IT AT:
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REVIEWSJuly/06/2015

[Review]Tuxedo | Tuxedo

 音楽が鳴る限り踊り続ける−−Mayer HawthorneとJake Oneによるモダン・ファンク・ユニット、Tuxedoによる本作を聴いた時に、筆者が真っ先に浮かんだ言葉だ。

 2015年3月、Tuxedoは、西海岸のインディ・ヒップホップ・レーベル〈Stones Throw〉から、デビューアルバムとなる『Tuxedo』をリリースした。本作のミックスは、80年代、数多くのディスコやソウル、ポップスのミックス/リミックスを務めたパイオニアとして知られるJohn Moralesが担当。これはおそらく、彼らが実在しうる本物のディスコ・サウンドを求めた結果の人選だったのだろう。それは、80年代に活躍したファンクバンドである、One Wayの『Fancy Dancer』を思わせるセクシーなジャケット・アートワークにも表れている。

 収録曲をいくつか追ってみたい。80年代の〈Solar〉サウンドを彷彿とさせる「Lost Lover」、まるで〈Salsoul〉のカタログにあっても違和感のないメロディラインの「R U Ready」、80年代の歌番組をそのまま再現したようなミュージックビデオが公開された「So Good」、ダンスフロアのキラーチューンとも言える仕上がりの「The Right Tune」。また、ラストには、ボーナストラックのようなかたちで、Snoop Doggがまだ、Snoop Doggy Doggだったころの代表曲「Aint No Fun」をそのままサンプリングした「Number One」を収録するなど、西海岸の伝統的なファンクネスへのオマージュも忘れていない。

 筆者にとって、特に印象的だったのは、「Do It」のミュージックビデオだ。ビデオには、前面に”タキシード”のプリントがされているTシャツを着ている太った黒人男性が登場する。向かった場所は、「Do It」のダンス(?)・オーディション会場のようだ。最初は周囲の人々に疎まれながらもスタジオで思いのままに踊り続け、いつの間にか彼にはスポットライトが当たり、そして周囲の人々をも巻き込んで一体となって踊り続ける。何気ない映像かもしれないが、この数分間のビデオは、筆者が経験してきたダンスミュージック・カルチャーの本質を思い起こさせる。

 野田努は、著書『ブラック・マシン・ミュージック』の中で、ゲイ・カルチャーを起点に発展してきた歴史を持つディスコ・カルチャーについて、次のように述べている。

“そもそもこの文化は絶望的状況から発したものなのだ。自分たちにとっての自然である状態が異常と見なされる世界に絶望しないゲイなどいるだろうか。たとえそれが消費の快楽であり刹那的なものだとしても、この世には刹那的な美しさというものもあり、その一瞬の快楽のなかに人生のすべてを賭けることもあり得る。そして、その刹那性は、ダンスミュージックと呼ばれる音楽を確実に磨いてきた。痛みから徹底的に遠ざかろうとするこの音楽は、長い年月のなかでいくつもの煌めいた瞬間を生み出し、多様な音楽性を獲得してきた”*(1)

 筆者は、ごく一般的な日本の大学生としての生活を送っている。しかし、告白すれば筆者自身、ダンスミュージック・カルチャーに救われる思いを経験したことは一度や二度ではない。このアルバムを聴くとき、筆者は、煌めくようなダンスミュージックのなかで踊る自らの姿や、その心地良い時間を同じ場の人々で共有するフロアの光景を想像する。そして、まるでTuxedoのふたりが、「仕事に追われる1週間が終わったら週末が待っている。今夜は最高な音楽と共に自分をさらけ出して踊ろう」とでも語りかけているようにいつも感じるのだ。

*(1)……野田努『ブラック・マシン・ミュージック』(河出書房新社、2001)、p24

文・成瀬光
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍、音楽藝術研究部に所属。