INTERVIEWSJune/10/2015

[Interview] The Dumplings – “The Dumplings”

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 The Dumplingsは、2013年にユスティナ・シフィェンチ(18)とクバ・カラシ(19)によって結成されたポーランド出身のエレクトロ・ポップ・デュオ。2014年に1stアルバム『NO BAD DAYS』をリリースし、ボーカルのユスティナの天使のような、また、どこか憂愁でアンニュイな歌声と、クバが巧みに操るシンセサイザーが繰り広げるエレクトロニック・サウンドが高く評価され、今年、ポーランド版グラミー賞とも言われるフレデリック賞のデビュー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。アコースティックからメタルまで、様々なジャンルから影響を受けているという彼らだが、その卓越した感性は音楽だけに留まらず、ミュージックビデオ、ファッション、写真にまで領域を広げ、同世代を中心に支持を集め始めている。

 そんな彼らの注目すべき魅力の一つが、歌詞である。彼らの創作活動の糧となっているというある特定の感情を元に描かれた歌詞は、シュールかつ抽象的で、すぐに理解し得るものではないが、何か惹きつけられるものを感じる。彼らの歌詞の深層にある感情は何なのか、そして、彼らの音楽の根源にあるものは何なのか。デビューして約1年半、今回が初来日という彼らの来日に合わせ、インタビューを試みた。

__今回がThe Dumplingsとしては初来日ということですが、日本の印象はいかがですか?

J(ユスティナ・シフィェンチ):人がすごく優しくてオープンですね。

K(クバ・カラシ):ヨーロッパとは全然違うカルチャーですごく良い印象を持ちました。またできるだけ早く戻ってきたいと思っています。

__今までにパリ、メキシコ、ロンドン、今回日本でもライブを敢行されていますが、各国を周ってみてポーランドと他の国の違いなど発見はありましたか?

J:これまでやってきたコンサートで、海外の割合というのが10パーセントくらいなので……。

K:ほとんどのライブはポーランドでやっているので、ポーランドではいっぱい人がきてくれるし、そんなに海外でライブしたからといってポーランドの印象が変わったということはないんですけど、ポーランド人は独特な特徴があるというか、ライブに対する反応も違うので、そういう意味では他の国の人と違うなという印象はあります。今回(日本で)ライブをやってみて思ったんですけど、日本人は結構ライブのときに音に乗って踊るんですね! ポーランド人は踊らないので。

__『NO BAD DAYS』はお二人にとって1stアルバムということですが、作品のコンセプトなどはどういったものですか?

K:特にコンセプトがあったというよりは、この過去1年半の間に作った曲をかき集めて作ったという感じ。といっても、元々あったのは9曲くらいで、その後さらに7、8曲ぐらい追加でこのアルバムの制作のために作って、その中から選んでアルバムを作成しました。

__楽曲の制作に関して、お二人では普段どのような流れで作業されていますか?

J:歌詞と音楽制作は別々にやるんだけど、曲はだいたいクバが作って、それに自分が加わることもあります。歌詞も、私が書いてきて、クバと一緒に書き直したりとかっていう風に、結果としては二人で一緒にやることが多いです。

__「SILESIA VIDEOSESSION」(ポーランドの音楽番組)で、アルバムの収録曲「Freeze」をアコースティックバージョンで披露されていましたが、アコースティックギターで曲を制作したりすることはあるのですか?

J:今はもうエレクトロ、シンセで曲を作っていますが、結成当初は、アコースティックギターで音楽を作り始めたので、そういう風に(アコースティックで)曲を作ることはありました。

__アコースティックからエレクトロニックに移行したきっかけは?

J:最初はギターでやっていて、いろいろカバーとかもやっていたのですが、やっぱり元々エレクトロニック系の音楽をたくさん聴いていたので。また、その当時、ポーランドにまだあまりそういったバンドが少なかったから、それで自分たちがそういうのをやりたいと思ったのがきっかけです。

__それが第21回フレデリック賞のデビュー・オブ・ザ・イヤー受賞に繋がった部分もあると思いますか?

K:エレクトロニックであったことはもしかしたら受賞には繋がったかなとは思います。ポーランドはやっぱりエレクトロニック系のバンドがそこまでいなかったので目立ちやすかったっていうのもありますし、それで自分たちが受賞したことによって今までより注目を浴びるようになってきたっていうのはあると思います。

__歌詞についてですが、ポーランド語と英語両方ありますよね?

K:英語の曲を書くときは、もう最初から英語の歌詞が浮かんでから作ります。ライムがポーランド語と英語では違うので、それに合わせて曲を作ってます。

__歌詞の和訳を見させていただいて、少し暗くて悲しい印象を受けました。

K:その悲しい感情が自分たちの中にあるから歌詞に表れているんだと思います。悲しみっていう感情自体すごく人間にとって強い感情というか、人に強い印象を与える感情でもあると思うんですよね。世界の報道写真のコンテストっていうのが毎年あるんですけど、その写真を見ていたら、1950年代以降の写真で、そのコンテストで優勝した写真ってほとんどが悲しい写真ばっかりなんですよね。誰かが死んでしまっている写真とか、戦争だったりとか。でもそれっていうのは悲しみが人々に影響を与える強さを表しているんじゃないかって思うんです。だからといって、それを意図して悲しい歌詞を書いているというわけではないけど、そういうのが人間の心の中にあるっていうのには何か意味があるんじゃないかと思います。

__その悲しみは何か特定のものから来る感情ですか?

K&J:うーん、その悲しみが何なのか説明するのはちょっと難しいですね。歌詞を書くとき、特定のことを書くというよりは、詩的にオブラートに包んで書いているところがあるので。特に物事を限定したくないし、私たち自身も、それほどオープンにいろいろ説明したいタイプの人間ではないので。

__The DumplingsのInstagramに「Music is OUR life and for music WE will suffer」と書いてあったのですが、このメッセージはどのような意味ですか?

K:Borgoreというイスラエル出身のダブステップのアーティストがいるんですけど、その人のファンで音楽もよく聴いていて。その人はとても頭がいい人なのに、とてもパーティ好きで、歌っている歌詞とかも結構女の子と遊んでいる歌詞だったりして。で、その中にこのフレーズがあって、とても頭に残ったんです。このフレーズって結構真理なんじゃないか、自分たちにすごく合っているんじゃないかと思って。

__「Technicolor Yawn」や「Betonowy Las」のミュージックビデオ、カラフルでポップなところが日本のカルチャーと似ている部分があると思いました。ミュージックビデオはお二人がアイデアを出し合って作っているのですか?

K:日本と似ている部分があると思ってくれて嬉しいです。今回の日本滞在を経て、これから間違いなく日本で感じたこと、体験したことがインスピレーションになると確信しています。ミュージックビデオを作るときに、最初にどんなものをインスピレーションで作りたいかという案出しはしました。それに対して監督が何種類か自分たちのアイデアを反映した案を持ってきてくれて、その中から選んだという感じです。

__これからもカラフルでポップなイメージをThe Dumplingsらしさとして貫いていきたい?

K:実はそういうカラフルなイメージのせいで、自分たちも若いし子供っぽく見られてしまったところがありました。若いし、「餃子(ダンプリング)好き!」みたいな。だから、次からはもう少しハードな印象付けをしていきたい。自分たちもこのアルバムを通していろんな経験をしてきて、少し大人になったので、それを反映してもっと大人なアルバムを作りたいと思ってます。

__お二人はまだお若いですが、これからThe Dumplingsの音楽の方向性が変化していく可能性はありますか? また、そのような変化を積極的に捉えていますか?

K:間違いなくエレクトロニック・ミュージックをやっているとは思うけれど、進化していくという意味では抵抗はないですね。

__その進化の中でも、これから先変わらないと言えるもの、貫いていきたいことは?

J:間違いなく変わらないと思うのは、絶対音楽を自分たちで作るということ。歌詞を誰かに書いてもらうとか、音楽を誰かに作ってもらうってことは絶対になくて、これからも自分たちで作っていくっていうことは変わらないです。

__音楽を作り続けることに何か目的のようなものはありますか?

K:まず第一に音楽が好きだからやってる。第二に、音楽をつくることが一種のセルフセラピーの役割を担っているところがあります。やっぱり、楽しいときに音楽は作らなくて、そういうときは友達とかと出かけてワイワイやるんですけど、スタジオに入って音楽を作るときって、悲しいときが多いので、そういう自分の中にある問題を解決する一つの手段にもなっているんです。第三に、今となってはそれが仕事になっているので、これから他の就職をして、音楽以外の仕事をするっていうのはちょっと考えられない。これからも音楽を仕事として続けていきたいです。

__最後に、これから挑戦してみたいこと、興味のあることなどあれば教えて下さい。

J:ダイビングと、考古学を勉強したい!

K:コンテストにも出たことがあるんですけど、これからも写真は続けていくと思います。

K&J:でも実際、何をやりたいかって考えたら、二人とも50個くらいパッて頭の中に浮かんできてしまうようなタイプの人間なので、一つを挙げて行動するのが難しいですね。二人ともファッションにすごく興味があるから、The DumplingsのオリジナルTシャツを作ったりすることには興味があります。今年の夏ポーランドでフェスに参加する予定があるので、それまでには準備したいですね。あと、カラフルな靴下を集めることが大好き!

(2015.6.4 渋谷にて)

*歌詞対訳、アーティストの基本情報は、ポーランド音楽・カルチャー専門のウェブサイト「Muzyka Polaska〜ポーランドの音楽が好き〜」を参照しました。

通訳・コーディネート:平井ナタリア恵美

インタビュー・文:小林香織
1994年生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在籍。インディ、ポップ、アメリカのカルチャーなどを担当。