ARTICLESMarch/28/2015

On Beat! (10) by Chihiro Ito – Beastie Boys “Anthology Sound of Science”

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 このCDに人格があるとしたら、彼らは友人のように冗談ばかりを言い続けている存在です。

 Beastie Boys、僕がこのバンドを初めて聴いたのは13歳の頃で、友人から借りたのが始まりでした。このバンドについて書くのはとても難しく思っています。なぜかと言うと、アルバム毎にスタイルが変わるし、共通点をあげるのも難しいのです。しかも、レコード会社は作ってしまう、洋服も作る、政治的な活動も行う、趣味はバスケットなど盛り沢山です。しかし、僕は20年前に聴いたアルバムの曲や曲順を丸ごと覚えていましたので、おそらく良いバンドだと思います。

 Beastie Boys(1982年に結成)はアメリカのニューヨークで結成された3人組のグループで、結成当初、パンクをよりハードにした、ハード・コア・パンクのバンドとして活動していました。しばらくすると、音楽性を実験的に模索し、結果的にヒップホップと融合させます。数枚のシングルを発表した後、彼らはヒップホップ、R&B専門の〈デフ・ジャム・レコーディングス〉と契約します。その創設者の一人でRed Hot Chili PeppersやRun D.M.C.のプロデュースも行う、リック・ルービンは初めは彼らの事を余り認めていなかった様です。しかし、リックと作られた、1stアルバム『Licensed to Ill』は大ヒット。シングルの”Fight For Your Right”(意訳すると、”パーティーをする権利の為に戦え”)はビルボードチャートの7位まで上り詰めます。また、彼らはサンプリングという既存のレコードなどの一部を録音して新しい曲を造るという技法を良く使用しています。当初は新しい技法として注目されていたサンプリングですが、次第に著作権の問題でアーティストがアーティストを訴えるという面で注目を集める様になってしまいます。以後のアルバムからは、生演奏とサンプリングに磨きがかかり、JAZZやチベットの馨明(しょうみょう=お経の一種で音楽のように聴こえるもの)、宇宙をイメージさせるシンセサイザー等の音も含めながら、音楽性が変化していきます。

 今回取り上げた彼らのベスト盤、『Anthology Sound of Science』(1999年)はそんな彼らのインディ時代から5枚目のアルバムまでの曲がランダムに入っています。また、付け白髭を付けたメンバーの冗談の様な写真が表紙の親しみのあるジャケットとなっています。”Beastie Boys”というハード・コア・パンクの曲から始まるこのアルバムを聴いているとまるで、僕たちのルーツはここにあったと言わんばかりです。彼らの音づくりには、いつも静かな曲ですら、うっすらとハード・コア・パンクのニュアンスが含まれている気がします。先にも言いましたが、彼らのアルバムごとに一貫して新しいテーマの作品を作るところが、怒り、攻撃性、対立をテーマにしたハードコア・ヒップホップとは微妙に違う音楽になっているゆえんです。

 彼らはBad BrainsやBlack Flagといった80年代のアメリカのハード・コアバンドに影響を受けていると公言しています。これは、彼らの音楽が「ハード・コア+ヒップホップ+新しいテーマ」というコンセプトをもとに新しい音楽を制作している事につながると思います。最近では数年前にでんぱ組.incという日本のアイドルやアメリカのメタルバンド、Kornなどがカヴァーした”Sabotage”という曲やA Tribe Called Questのラッパー、Qティップも参加している”Get it together”など、ヒット曲が盛り沢山です。これを聴けば、ヒップホップ界のエルビス・プレスリーの様だと言われていた彼らの事が解るかもしれません。この例えは元々ロックやブルースは黒人が始めた音楽としてあり、白人のエルビスが同じスタイルの音楽を演奏して興行的に大成功したことの例えです。

 また、彼らの活動を楽しむには曲を聞くだけではもったいないようなところがあります。彼らは1992年にGrand Royalという会社を作り、とても独特のチョイスでショーン・レノンやベン・リーなどの素晴らしいミュージシャンの音源の制作を行いました。日本からもBuffalo DaughterやCibo Mattoのプロジェクト、Butter 08といったバンドの音源が発売され好評を得ました。

 今回紹介している、このアルバムも大手レコード会社から発売されたものとは別にGrand Royalでは150曲の中から自分の好きな曲を選べ、CDが自宅に郵送されるといった企画も行っていました。また、雑誌を出版し、洋服をデザインしたり、独特の遊び心がブームの火付け役の様になっていました。しかし2001年、10年という短い期間でこの会社は終了してしまいます。

 彼らはGrand Royal終了後も、アダム・ヤウクの呼びかけでチベット開放の活動に力を入れて、”Tibetan Freedom Concert”を世界各地で行ったりしました。東京公演は実際に僕も行ってみたのですが、会場内でチベットの僧がチベットの現実を伝えるパンフレットを配ったり、舞台にチベット風の装飾があったりと、お客さんはミュージシャン目当てという感じでしたが、かなり力の入っているのを感じました。

 2012年5月4日、メンバーのアダム・ヤウクは癌により急死しました。

 僕は彼に直接会って話した事はありませんでしたが、音源から想像するに、海の向こうにいる冗談ばかり言っている人間が死んでしまったと思うと、何とも言えない気分です。そして、彼らの行ってきた制作のスタイルは今後、僕の現代美術の画家としての制作活動に影響を及ぼすであろう……そう思い、青い空の下で今日も彼らの曲をヘッドホンで聴きながら歩きます。

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

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Artist: Beastie Boys
Title: Anthology Sound of Science
Release Date: 23 November 1999
Label: Ground Royal, Capitol

文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013]、CAAA招待[2014])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待[2012、2014])、中国を中心に
ギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリー、畑などでも作品展を行う。Panphagiaディレクター。3月に阿佐ヶ谷アートストリート2015、6月にスイスのRED ZONE GALLERYで作品展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”