INTERVIEWSMarch/24/2015

[Interview]Jam City – “Dream A Garden”

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 〈Night Slugs〉所属のプロデューサー、Jam Cityが2012年のデビューアルバム『Classical Curves』に続くセカンドアルバム『Dream A Garden』をリリースする。〈Night Slugs〉と言えば、現在最も注目されるUKアンダーグラウンド・シーンの俊英たちが所属するレーベルでもあり、そのスタイリッシュなイメージから、音楽シーンのみならず多方面から注目を集めている。

 前作のクラブユースの硬質な作品から一転、アートワークからタイトル、ミュージックビデオまでコンセプチュアルな作品であることが見て取れ、一貫したメッセージ性の強いヴォーカル・アルバムとなった今作。その意図を紐解くべく、背景となる〈Night Slugs〉、そして今回のアルバム・コンセプトを中心に話を聞いた。

__〈Night Slugs〉は、サウス・ロンドンを拠点とするレーベルとのことですが、ご自身の活動の拠点は、同じくサウス・ロンドンでしょうか(FacebookやSoundCloudには、”In Transit”という記載がある)。

前はサウス・ロンドンに住んでいたんだけど、今は少しロンドンから離れた郊外に住んでいるんだ。色々な場所を回っているから、この仕事をしている限り少なくともあと2年は決まった場所にずっと住むわけではないし、行きたいと思ったらロンドンにすぐに行けるしね。しかも、ロンドン自体もクラブがどんどん閉まったりして、前ほど面白くないんだ。家賃もすごく高い。ロンドンに限らず、今は色々な場所がそうだと思うから、行きたい時に行ける距離であれば必ずしも都会にすむ必要はないかなって思って。

__〈Night Slugs〉所属のメンバーは、イベントやレコーディングなどで、よく集まるのでしょうか。

集まるよ。Alex(Alex Sushon aka Bok Bok)には良く会ってるし、パーティでもよくDJしてる。俺が一番最初にセットアップしたEarthlyっていうパーティがあって、ロンドンにあるコルシカ・スタジオっていうクラブでやったんだけど、その時も、Bok Bok、Manara、Evian Christ、俺、Innocent XIみんなでDJしたんだ。ロンドンでもたまに〈Night Slugs〉のパーティがあるし、そういう時はいつも一緒にDJしたり、集まったり、作業したりしてるよ。

__そのパーティはどんな感じなんですか?

ポイントは、すっごくスローテンポなところ。先週やったパーティは、すごく小さなクラブでやったんだけど、超暗くて、スモークマシンを炊いて、90bpmくらいの音楽ばかりプレイしてた。

__面白そうですね。

だろ? それだけスローでも、エナジーやグルーヴはしっかりとあるんだよ。違うのは皆のダンスの仕方。すっごい良いパーティだったんだ。エナジーがありながらもドリーミーでもあって、サイケデッリクで、すごくクールだった。

__そうやって皆が集まった時は、最近はどのような話題が多いですか。

皆仕事仲間でもあり友だちでもあるから、どんなことでも話すよ(笑)。皆が集まった時に話すような普通の会話をしてる。だからこれと言ってはないかな(笑)。Alexのことなんか、14の時から知ってるからね。今26だから、もう10年以上になる。皆仲がいいし良い奴ばかりだから、”Nice” Slugsって感じだね(笑)。

__前作『Classical Curves』と比較すると、今作はヴォーカル・アルバムという印象が強く残ります。ご自身としては、今作で意識的に前作と変えたところは、どのようなところでしょうか。

今回は、暖かいサウンドを作りたかったんだ。冷たいサウンドはもう作りたくなかったし、もっとポジティブなサウンドで、ちょっと変わった意味でダンサブルなものを作りたかった。ダンス・レコードである必要はないんだけど、ニュー・アルバムではもっとグルーヴが効いてるし、もっと抽象的なんだ。これとこれを使ってこういうサウンドを作ろうと決めて曲作りに挑んだわけではなくて、作品自体は自然の流れに任せて作っていった。でもエナジーを入れることと、自分の周りの生活や世界を音に取り込んで行こうとは決めてたよ。

__前作より、全体的な曲の配置、リリックを主体とした楽曲など、よりコンセプチュアルな作品のように感じたのですが、明確なコンセプトを持ってアルバムの制作に入ったのでしょうか。また、主たるコンセプトがあれば教えてください。

このアルバムのメインのアイディアは、自分たちが安心できる、落ち着ける場所、そして平和を感じることができる自分たちの場所を作るっていうことなんだ。自分というか、自分も、他の人間も、もっと大きく言えば地球全体もそれを感じられるような場所。アルバム上の怒りとかそういった部分を取り除くと、今言ったような希望が出てくるんだ。

__「Unhappy」のミュージックビデオでは、ラストに、”STOP BEING AFRAID”、”ANOTHER WORLD IS POSSIBLE”というメッセージが映し出されます。このメッセージの意図するものは何でしょうか。

今の世の中って、政治家や大きなビジネスに携わってる人たちから、自分にすごい期待やプレッシャーが与えられてると思うんだ。沢山働いて、より多くのお金を稼いで、より貪欲で欲張りであることが求められている。それに応えられなかったり、応えたくなかったりで、気持ちが沈んでる人も沢山いると思うんだ。それがすごいストレスになったり、自分の居場所がわからなくなったりね。俺たちがなるだけ物を買うようにとか、力のある人々がそれをコントロールしてる。しかも彼らは、それに対して俺たちがどう思っているかを聞きたくないんだ。

でもそれを話すことって大切だと思うんだよね。同じ思いをしている人がいるかもしれないし。そういうストレスを感じているのは自分のせいじゃなくてソサエティのせいなのに、それに対して俺たちが権力を持った人たちに立ち向かうのを恐れて何も言わないせいで、それを当たり前の世の中にしてしまっている。その恐れを振り払って、きちんと向かい合って考えれば、実は皆がそのストレスを感じなくてすむ他の世界があるかもしれないっていうことなんだ。その恐れさえ克服すれば、自分たちの夢がコントロールされることはなくなるかもしれないし、自分たちの夢のために自分たちのやり方で進んでいける世界になるかもしれない。それが世界を変える出発点だと思う。

自分に直接大きくは影響してこないから、あまり政治に関心がない人って多いと思うんだ。俺自身もそう。自分の生活とそこまで関係ないから政治のことってよくわからないけど、実は意外なところで影響してたりするんだよね。例えば世の中不眠症の人がいるけど、彼らは皆不眠症で生まれてきたわけじゃない。お金を稼がないと、メールをチェックしないと、頑張らないと、美しく見えないと……そういったプレッシャーやストレスが人を不眠症にさせる。そういった文化やコントロールされた世界の中での生活が、気づかないうちに自分の意識に影響していることもあるんだ。

__「Crisis」は、リリックビデオが公開されていますが、改めてどのような状況を歌ったものでしょうか。「Crisis」というタイトルにした意味は?

「Crisis」は、2011年にイギリスで始まった暴動についての曲。当時俺はサウス・ロンドンに住んでたんだけど、いきなり通りから誰もいなくなったり、警察に人が物を投げ始めたり、コミュニティとコミュニティで対立したり、あれはすごくクレイジーなシチュエーションだった。でも同時に、何かを変えることが出来るっていうのは、エキサイティングでもあったんだ。あの暴動が起こったことによって、現状に人々が耳を傾けるようになった。これまでの政治や警察の在り方が見直されるようになったんだ。怒りもすごかったけど、そこには同じくらい愛もあった。正義のために、人々が一つになって行動を起こそうとしたんだからね。

「Crisis」では、そのサイケデリックな状態を表現しているんだ。めちゃくちゃでありながらもエキサイティングな、普段では考えられないような世界。愛と怒りが混同する世界。それが”Crisis”の世界観なんだ。あの暴動は、当時はよくニュースで”Crisis”って言われてた。だからそのタイトルにしたんだ。あの事件は悲惨な部分ももちろんあったし、罪の無い人が被害を受けたのも事実。でも、なぜそんなことが起こってしまったのかを皆が考えるきっかけにもなった出来事でもあるわけだよね。”Crisis”っていう言葉は”何かが起こってる”っていう意味でもあるから、自分が好きな言葉でもあるんだ。

__70年代や80年代における「未来がない」の言葉の意味と、ご自身が語る、現在の「未来がない」の言葉の意味はどのように変わったと思いますか。

未来について言及してる音楽って多いと思う。その多くは、“今でさえまだ問題だらけなのに、それが解決出来ないうちは未来なんてない”ってことだと思うんだ。もちろん未来は必ず来る。でも、自分にとってのリアルな将来を考えた時、今変化を起こしていなかったら、未来は暗いと思う。そういうこと。音楽をやってなかったら、俺だって職がないと思うしね。今の世の中が変わらない限り、良い未来はない。それは70年代や80年代も今も同じだと思うよ。歴史を勉強してる友だちがいるんだけど、彼が、歴史は時にズームアウトして見るものだと言ってた。

歴史を長い目でみると、人間が存在している時期なんて本当に短い。恐竜が存在していた期間となんて比べ物にならないわけで(笑)。人間が地球に誕生してからもそうだけど、工業文明が出来たのなんてたった200年前くらいの話だよね? 200年なんて、すっごく短い期間だと思う。そう考えると、70年代とか80年代って、結局長い長い歴史の中のたった30年なんだよ。そんな短い期間で、何かが大きく変わることはないと思う。その時代で解決すべき問題は多少違っていたとしても、根本の意味は同じなんじゃないかな。

__ジャケットやミュージックビデオなど、今回の作品全般のビジュアルイメージが赤(ピンク?)を基調としていますが、どのような意味があるのでしょうか。

空があの色になる時が好きなんだ。あの瞬間ってすごく綺麗だし、自分の夢のガーデンに色があるとしたらこの色だなと思って。何で好きかって、空があの色になるのは毎回ではないし、なったとしても1時間くらいで消えてしまう。夜ではないんだけど一日の終わりでもあって……そういうあやふやなところがいいんだよね。このアルバムでも、そういったあやふやさが表現されてる。物事は変化するし、100%白か黒ってことはない。あの時間帯のあの空の色は、それを象徴してるんだ。

__ご自身がポストした「シニシズムは贅沢だ」というような、ツイートを読んだのですが、アルバムのコンセプトと繫がるものでしょうか。また、なぜ、それが贅沢なのでしょうか。

何か問題があるとき、出来る事は2つある。立ち上がって発言するか、笑って見過ごすか。シニシズムはその後者にあたるわけだけど、シニシズムっていうのは、贅沢でもあり特別だと思うんだ。結局、自分にとってその問題が何の影響もないから皮肉を言えるわけだからね。解決しないとどうしようもない状態だったら、シニカルになんてなれないと思う。充分なお金があって、その問題に触れなくてもやっていける余裕があるからシニカルになれる。それってすごく贅沢なことだと思うんだよね。

__Kelelaの「Keep It Cool」、「Cherry Coffee」のプロデュースを手がけ、4月にリリースされる『Cut 4 Me』のデラックス・エディションではリミックスを行っていますが、このとき、プロデュース、リミックス・ワークの際に、プロデューサーとして注意したのはどのようなところでしょうか。

プロデュースをする時は、結局はそのアーティストが作りたいものを作ることが目的だから、それを忘れないようにしてる。自分の意見を押し付ける事はせず、助言をする程度。あとは、そのアーティストが心地よくリラックスして作業できる環境を作ることだね。そう環境の中でこそ良いものは生まれると思うから。Kelelaなんかはもう長い事知っているからリラックスして出来るんだけど、他のアーティストの時も、なるだけそのアーティストが求めるものを理解して、人としても安心出来る存在でいようと心がけてるんだ。”境界線”って大切だと思ってて、プロデューサーの立場だと、その境界線を越えてアーティストが持っているものを潰してしまってはいけないと思う。歌詞に関する意見もそうで、”君が求めたいサウンドにするには、もしかしたらこっちの言葉の方がいいんじゃない?”みたいな助言はするけど、自ら言葉を変えた方がいいと要求することはない。そうやって、一歩引いて作業に望むことが注意してるところかな。

__今後、プロデュース、リミックス、また、新作のリリースなど、新しいプロジェクトの予定は決まっていますか。

今年はツアーがあるし、今Kelelaのプロデュースもしてる。とりあえずツアーで忙しくなりそうだけど、出来れば早く次のアルバム制作に入りたいんだ。まあ、旅で色々回りながら曲作りをするっていうのはすごく大変だから、無理かなとは思うけど(苦笑)。出来ればそのバランスをうまくとりながら、ツアーだけじゃなくてプロデュースや他の作業も進行したいなと思ってる。日本にも行けたら是非行きたいしね!

__ありがとうございました。

ありがとう! またね。

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Artist: Jam City
Title: Dream A Garden
Release date: 2015/03/25 WED ON SALE
Price: ¥1,800(+税)
国内盤特典:ボーナストラック追加収録

01. The Garden Thrives
02. A Walk Down Chapel
03. Unhappy
04. Good Lads, Bad Lads
05. Today
06. Damage
07. Crisis
08. Black Friday
09. Proud
+. Bonus Track/s for Japan

インタビュー・文:T_L (UNCANNY)

取材協力:Beatink