ARTIST:

Culprate

TITLE:
Deliverance
RELEASE DATE:
2014/12/08
LABEL:
Self
FIND IT AT:
Bandcamp
REVIEWSFebruary/07/2015

[Review]Culprate | Deliverance

 およそ一年前、イギリスのアーティストCulprateが、Indiegogoというクラウドファンディングサービスにおいて「The Experimental Album」という企画を始動し、2014年2月から4月の約2ヶ月間、出資が募られた。「私の作品をネクストレベルにまで推し進め、新たな実験的アルバムを作りたい」。他のこういった企画同様、多額出資者には、特別なサービスが設けられた。例えば、Skypeを介したCulprate直々のサウンドチュートリアル、楽曲製作者向けにアルバムで使用されたサンプルパックを提供する等。デジタルでのリリースでの他に、CD、更にはレコードといったフィジカルの特典も用意された。結果、Kickstarter等で取り沙汰されるような新しいイノベーション製品ほどの達成スピードでは無いにしろ、無事に応募期間内に、目標金額である22,370ユーロに到達した。

 そうして、少々の沈黙の後、2014年の12月にCulprateのニューアルバム『Deliverance』はリリースされた。彼のアルバムのリリースは、2011年に登場した『Colours』以来であり、そして、彼が語っていたのと同様、非常に刺激的で、実験的なアルバムとなった。

 Culprateは2011年に『Colours』をリリース以降、EP等の小規模な作品のリリースを中心に行うようになる。2011年末にリリースされた『5 Star EP』は、Glitch Hopと呼ばれるヒップホップ調のビートを極端に加工したサウンドを中心に、ベース・ミュージックやUK Garage等への接近も感じさせる名作であった。それ以降も、ダブステップサウンドを展開した『Nightmares In Reality EP』(2012)、クラブミュージックに対する自身の可能性を更に推し進めた『The Great Expedition』(2013)をリリースし、EP以外にも、ロンドンのRed Bull Studioで録音された「That Sound feat. Maksim」では攻撃的なグライムサウンドを展開する等、近年はクラブミュージック方面での活動に重点を置いていた。

 同時期、Culprateが本来目指したかったであろう方向性を示唆する作品集もまたリリースされていた。2012年に、Culprate自身のBandcampでリリースされた過去作集『Summer Lovin’ (Best Unheard of 2005 – 2009)』では、近年のサウンドとは打って変わって、IDM、ブレイクコア的なサウンドが展開されており、偏狂的な高速ビートサウンドが全体を覆っていた。恐らく、新作『Deliverance』の制作へと彼を駆り立てたのは、自分のサウンドを次の段階へ推し進めるための実験を行うのと同時に、自らのルーツの回帰を図るためでもあったと考えられる。

 『Deliverance』は、いきなりプログレへのアプローチを感じさせられるような冒頭のイントロで幕を開ける(1曲目「Whispers (Part I)」)。ギターのフレーズが乱反射し、ボーカルの切れ端は極端に加工され、CulprateのIDM寄りの偏好が既に垣間見えている。明るいメロディーから高速で回転するビートへとシフトしていく2曲目「Florn」や、ディープハウスを畸形化させたような3曲目「The Memoirs of Gregory Otterman」を経て、アルバムの目玉曲とも言える4曲目「Acid Rain」へと雪崩れ込む。スタジオミュージシャンを取り入れて録音されたであろうギターが綺羅びやかに鳴り響くラテン調のサウンドから、縦横無尽に駆け巡るアシッドベースと切り刻まれたブレイクビートが挟み込まれるそのサウンドには、Squarepusherをも思わせる才気あるセンスが存在している。アルバムの後半に至っては、もはや予定調和的な展開は見えず、音要素はひたすらその情景を物語ることに徹し、映画音楽の様相を呈しだす。

 このアルバムを通して、彼が近年武器にしていた破壊的なワブルベースは鳴りを潜め、その代わり、IDM的なグリッチと、メロディアスな要素、様々な器楽隊が大量に詰め込まれている。クラブミュージック的なフォーマットは取り払われ、アルバムの世界観の為に全ての要素は費やされている。その代償として、中盤はコンセプトに徹するあまりやや間延びしているような感覚も無視出来ず、アルバム全体を聴き通すにはちょっとした体力が必要である。だからこそ、Culprate自身が製作前から「実験的」であることを表明し、尚且つ、クラウドファンディングという、「目標金額を達成できなければ全額得ることは出来ない」というシステムにおいて、自らを試そうとしたのではないだろうか。それは、Culprateの近年のサウンドにおいて顕著だった、(有名なアーティストにとってそれは当然のことではあるが)テンプレート的とも思える予定調和のような構成を、Culprateというアーティスト自身の権威でもって取り払ってしまう一つの手段であったようにも思える。今日、このクラウドファンディングを使用した出資システムが特別新しい感覚はもはや無いのだが、アーティストがリスナーに求められる偶像から、新たに獲得した強い信頼を後ろ盾とし自ら脱却していく為の可能性を、Culprateの挑戦とこのアルバムは提示したと言えるだろう。

文:和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行っている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。