EVENT REPORTSNovember/26/2014

[Event Report]RBMA presents Lost In Karaoke

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 「カラオケ館 新宿店」。繁華街の中でもひときわ目立つこの大きなビルは常にきらびやかな電飾に包まれており、それだけでも東京という都市が持つ妙な近未来感や日本のカラオケ文化の異質さを感じさせる存在であると常日頃思ってきたが、まさかここでこのようなイベントが行われるとは夢にも思わなかった。

 Redbull Music Academy Tokyo 2014がカラオケルームから世界中に向かって仕掛けたプログラム、その名も「Lost In Karaoke」である。

 実はカラオケ館は、ソフィア・コッポラ監督作品『ロスト・イン・トランスレーション』で主人公ボブがロキシーミュージックを歌う場所として登場している。寿司やしゃぶしゃぶなどと同様、作中では「日本独特のもの」を示すアイコンの一つとして機能しているカラオケルームだが、このイベントではそれにふさわしく、部屋ごとに日本独特の音を鳴らす様々なアーティスト達が配置されていた。合計7ブース、23アーティスト、そして全会場同時ライブストリーミング。彼らはここから世界中のお茶の間に向けて、日本の最新の音楽を届けることになる。今回UNCANNYではWEST BEAT SOUNDSブースとMALTINE×BUNKAI-KEIブースに密着した。

 筆者が到着した時にはもうどのブースもすし詰め状態だった。関係者、招待者以外の一般入場は行われていなかったものの、何よりもまずこの2ブースは6〜8人ならやっと入れる程度のカラオケルームを使用しており、すれ違うのも精一杯。そこに機材、カメラと出演者、クラブばりの照明とミラーボール、それにミスマッチなカラオケの壁一面に描かれた空と雲のイラスト……。それだけでもこのイベントがかなり異質なもので、今までに無いものを見せてくれるものだと予感させるには十分であった。

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 関西人が顔を揃えたWEST BEAT SOUNDS一番手は、若手女性エレクトロニックアーティスト∠yuLLiPPe。ノイジーで骨太なサウンドに美しい歌声を乗せて、フロア(部屋の外のオーディエンスまで)を心地良く踊らせていた。海外にも積極的に楽曲を発信している彼女。今回のパフォーマンスで、国内外の耳の肥えたリスナー相手にもしっかりとその爪痕を残したであろう。

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 続いて、白いユリの花束を抱えて颯爽と現れたのは、最近さらにその勢いを増しているSeiho。華やかなサウンドを、長髪をなびかせてプレイする姿は優雅そのもの。シンセサイザーによる長めのインプロビゼーションでライブの醍醐味を味わわせてくれたかと思うと、「I Feel Rave」などキラーチューンの連投。息つく間もない圧倒的な熱狂の渦を生み出していた。

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 そして、このブースのトリを務めたのが、メジャーデビューアルバム『First Album』をリリースして間もない神戸在住トラックメイカーtofubeatsである。今回の「Lost In Karaoke」のテーマさながらに、関西を拠点に、その活動を日本へ世界へと広げてきた。djnewtown、content ID マンションなど、別名義での活動も行ってきた彼の音楽的バックグラウンドを色濃く感じさせるプレイと、メジャーアーティストtofubeatsのヒット曲(「夢の中まで feat.ERA」「m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣」「水星」など)の融合。ここ最近のライブセットとはひと味もふた味も違う気迫を感じさせる内容となっていた。

 「いま、関西の音楽シーンが凄い」とはよく言われるが、東京にいながらにしてその勢いを感じる事は難しい。しかし、今イベントは、たった一つのカラオケルームでそれを体現してみせたといえるだろう。

 一方、WEST BEAT SOUNDSブースの上階では、東京の若い音楽カルチャーの中心を担うと言って過言ではない〈Maltine Records〉、Go-qualiaとYakoによるエレクトロニック・ミュージックの先端を提示するネットレーベル〈Bunkai-kei Records〉によるコラボレーションブース「MALTINE×BUNKAI-KEI」が開催された。分解系でのリリースも記憶に新しいNyolfenやSaitone、mus.hiba、マルチネのイベントにも多々出演するPa’s Lam SystemやTomggg、三毛猫ホームレス、正体不明アーティストとして話題となった©OOL JAPANといったアーティストが、カラオケブースの一室を彼らの主戦場とも言えるインターネットへと解放した。

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 今回招致された彼らの特異点は、インターネットという、ある意味閉じられたカルチャーを現実世界へとリンクさせ、音楽業界というフィジカルな場にも通用する環境を創造したこと、あるいは、そういった比較すら無意味な事に変貌させたことである。この日の会場でも大いに盛り上がった三毛猫ホームレスは、hironicaとmochilonによるポップ音楽ユニット。キャラクターと訴えかけるメッセージにおいて非常にシニカルな立場をとりながら、彼らの非常に深い音楽的バックグラウンドによって放たれるサウンドは、一様には消化しきれない不思議さを持ち合わせている。この日のライブでは、最新EP収録曲「インターネット」 (「インターネット!」の掛け声がカラオケ館にこだまするのはとても異様な光景であった)や、ラブリーサマーちゃんが急遽乱入した「Moonlight (Mikeneko Homeless Remix)」、オノマトペ大臣とmochilonによる共作「Sence Of Wonder」といった楽曲がプレイされ、小さなカラオケブースは異様な熱気に包まれた。

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 勿論、取り沙汰されるべきはネットカルチャーのポップ性だけではなく、ソリッドで高品質なトラックが大量にリリースされる側面も、だ。〈分解系〉からリリースをしたNyolfenのライブは、その作品集からも覗えた近年のベース・ミュージックやビート・ミュージックをより進化させたサウンドが非常に特徴的であった。

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 そして、現在注目を集めている3人組ユニット、Pa’s Lam Systemも当然忘れることはできない。彼らのライブでは、活動初期のリリースでありながら、今でもその攻撃的なベースとビート、そして精密なサウンドプロダクションに類を見ない名曲「Looooooop」、今年5月にLIQUIDROOMで開催されたイベント「東京」においても重要なアンセムとなった名曲「I’m Coming」等、Pa’s Lam Systemの魅力が余すところ無く披露された。そして、ライブ終盤でプレイされたtofubeats「CAND¥¥¥LAND feat. LIZ」の新リミックスは衝撃的なものであった。

 カラオケブースから発された日本の次世代の音楽たちは、インターネットを通じてどこへ届いたのだろうか。その答えが見えるのはもしかしたら数年後になるかもしれない。Red Bull Music Academyによる今回の試みが、日本の音楽カルチャーと相互作用し、新たなビジョンが拓けていくことに大いに期待したい。

Photo: Yusaku Aoki, Dan Wilton, Yasuharu Sasaki / Red Bull Content Pool

取材・文:
和田瑞生
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。

野口美沙希
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在学し、音楽藝術研究部に所属。現在ウェブジンのノウハウを勉強中。