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EVENT REPORTSNovember/17/2014
[Event Report] Ryoji Ikeda "test pattern [n°6]"
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Red Bull Music Academy presents test pattern [n°6] : Ryoji Ikeda
会期:2014 11/05 – 11/09
会場:Spiral Hall – Spiral 3F (東京都港区南青山5-6-23)


2014年11月5日から11月9日にかけ、Red Bull Music Academy(RBMA)のプログラムとして、池田亮司によるインスタレーション"test pattern[n°6]"が東京・青山のSpiral Hallにて開催された。

アーティスト公式サイトによると、"test pattern"は、インスタレーション、ライブパフォーマンスなど、様々な形態をとるが、それ自体はあらゆるデータをバーコードとビット列に変換するシステムとして働き、使用するAVデバイスと人間の知覚の能力の"test"として機能することを意図したものだという。

"test pattern"は2008年、山口県のYCAMを皮切りに、マドリード、パリ、ブザンソン、シドニー(n°1 – 5)、あるいはニューヨークのTimes Squareなどで開かれている。今回はSpiral Hallでのn°6の模様を報告する。

Spiral Hallの会場に(靴を脱いで)足を踏み入れての印象は、極めて洗練されている、ということ。設置されたスピーカーからの聴覚情報は、天井から落ちるライトの光によって、床に敷かれたスクリーン上の明滅(onとoff)に変換されているようだ。バーコードのパターンが映し出される床は、縦は25,6歩、横は10歩前後。スクリーン上の明滅は中央でくっきりと縦2列に区切りられている。

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耳を塞いでも身体に直に響く音と、床のスクリーン上でのバーコードの明滅、天井のライト。試しに目を閉じても床の明滅の様子が想像できるようで、両者は同期しているような感覚をもった。耳を塞いでも聴覚情報を遮断するのは困難だった。

強烈な音を耳に入れつつ、激しく明滅する床のスクリーンを身体のバランスを保ちながら歩くのはなかなかに難しい。すでにこの時点で、筆者は身体能力という点では落第だったようだ。

ところで、今回のインスタレーションに対して、池田亮司は以下のようにコメントしていた。

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これは印刷されたコメントを筆者が目視し、キーボードで入力しているため、間違っているかもしれないが、Times Squareでのイベントに際しても、同様のコメントを出しているようである。

一目見て何のことだかわからなかったというのが正直な所だが、このtweetに示唆をうけて、試しにASCIIでデコードしてみると、

6accdae13eff7i3l9n4o4qrr4s8t12vx

という文字列が現れた。どうやらこれはニュートンがライプニッツと微積分に関わる業績の先取権を争っている最中に書簡に記したアナグラムらしい(リンク先ではaeは"æ"である)。

GuicciardiniIsaac(2009)を参照して筆者が調べたところ、これは次のように解読できるとのこと。

"Data æquatione quotcunque fluentes quantitates involvente, fluxiones invenire; et vice versa."
(Given an equation involving any number of fluent quantities, to find the fluxions: and vice versa.)

日本語では「任意の数の流量を含む方程式に対して、流率を求めること。またその逆」といったところだろうか。fluentやfluxtionといった言葉を使ったニュートンの流率法。それに対して、ライプニッツは二進法に初めて注目したとして、計算機の授業などで、歴史を辿る際に触れることもある。ニュートンも、このアナグラムを、よりによって当の相手が着目した二進数に符号化されてしまうとは。

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さて、入力される音を、それと緊密に同期するような視覚情報へと置き換えるプログラムが"test pattern"の中枢に位置している。同期といったが、すでに述べたように、"test pattern"はあらゆる形式のデータをバーコードとビット列に変換するシステムとして機能し、デバイスのパフォーマンスと、人間の耳と眼の、あるいは身体による知覚の限界を探ることを意図しているという。だとすると、問題は、このテストに不合格である瞬間に何が起きるのかということだ。

筆者の場合、まさに単一周波数の試験信号とおぼしき聴覚情報の入力に対しては、視覚情報は同期せず、両者はバラバラに見え、また聴こえた。これは筆者が、そのような音を聞くことに慣れておらず、筆者の残念な耳はついていけなかったからだろうか。あるいは、入力側である聴覚への過度のチューニングが、視覚と不釣り合いな印象を抱かせるのだろうか。

聴覚情報の単調さと、スクリーン上をスムースに流れるように移動する明滅の安定性が、たしかに対応していることはわかるのだが、それが「同期している」と感じることはできなかった。複数の感覚器官の同期と、筆者の耳が残念だったためか、あるいは身体能力が低くバランス感覚が鈍いために露出した、視覚と聴覚、あるいはその他の感覚器官の非同期性という体験。

翻って、ビット列へのリアルタイムの変換を担うプログラムは、ライブパフォーマンスでは入力される音声を、リアルタイムで光の明滅に変換しているという。変換が追いつかないことはあるのだろうか。そしてその時、どのように光は明滅するのだろう。

そこでは、身体による知覚はまた違った変化をするのかも知れない。

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写真: Yasuharu Sasaki / Red Bull Content Pool

文・MMHT_R


GuicciardiniIsaac, Niccolò, 2009, Newton on Mathematical Certainty and Method, The MIT Press, Cambridge MA.