INTERVIEWSOctober/25/2014

【Interview】Daisuke Tanabe – “Floating Underwater”

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 2010年度レッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)への参加をはじめ、Sonar FestivalやTauron Nowa Muzyka Festivalなどの海外イベント、また今秋東京で開催となったRBMA主催EMAF TOKYO 2014への出演、そしてUKのプロデューサーKidkanevilとのコラボレーションであるKidsukeとしての活動と、国内外問わずワールドワイドに活動するDaisuke Tanabeが、前作『before I forget』から約4年ぶりのフルアルバムとなる『Floating Underwater』をリリースした。

 昨今のアンダーグラウンドなシーンにおいてフリーダウンロードによるリリースが珍しくないように、本作は事前に全曲フルストリーミングで公開された。一方で、アルバムタイトル、アートワークから窺えるのはKidsukeでみせたポップでファンシーな外向けのイメージでなく、沈水した内向的なものである。そこには4年という時を経て変化した自身の心境が表出していることは間違いないだろう。今回のニューアルバム、また音楽との向き合い方や自身の変化について、インタビューを行った。

__Daisuke Tanabe 名義では4年ぶりのフルアルバムとなりましたが、4年前と比べて、自身を取り巻く環境に変化はありましたか。

勿論とても大きな変化がありました。前作以降、様々な人たちに会い、RBMAへの参加やフェスへの出演、そしてKidsuke等のコラボレーションなど、それまで自分が想像もしていなかった事がどんどんおきました。当初自分の音楽が僕を様々なところに連れ出してくれる感覚は、本当に新鮮で刺激的でした。そしてそれまではオーディエンスとして向き合う部分が多かった音楽にどっぷり浸かって、言って見れば部屋の外から中へ移動したような、そういう変化がありました。それに伴って見る目、聞く耳も常に変化していました。勿論それは今現在でもそうですが。そんな中でいつまでも作品に先導され見知らぬところへ連れて行ってもらうだけではいけないんじゃないか、そろそろ方向性を見据えて制作をするべきなんじゃないか。とか色々な事を考えながら、今に至っています。

__アルバムの制作期間はどれくらいでしたか。

実際の制作期間は、それほど長くはなく、それでも一年以上はかかりました。ただ、方向性が見えるのに要した時間はかなりのもので、最初の二年程はいったい次のアルバムはどういう方向にすればいいのかと右往左往していた感があります。その間にも先程述べたような自分を取り巻く状況は刻々と変化し続けていたので、本当に迷いが多かったです。ただ、多くのアイディアを出す中で、それまでバラバラだったものがある日突然方向性を示してくれました。二つの曲が発する線を結んだ所にゴールがうっすらと見えて、あの方向を目指せば何かにたどり着くんではないかな、とそういう感覚を突然覚えて、そこからはひたすらその方向を目指した曲を作っていきました。

__本作のメイン・コンセプトを教えてください。

最初のソロアルバム『before I forget』では、かなり内向的な音楽を作っていました。制作前にロンドンのPlastic Peopleで開催されていた参加型イベント”CDR”でオーディエンスと向き合う事は長く経験して居て、その頃出したシングルやCDRで発表した音楽などは結構外に向いたものも多かったんです。でも、それでもアルバムとなると、なかなか周りに目を向けられず、結果、今聞くとあまい部分がかなりあるけれども、ある意味でとても自分に正直な音ができました。それがその後、リリースを重ねるにつれ外を見る目が更に開かれて、そしてKidsukeで本格的に(自分なりにですが)外に向かった音楽を作るに至ったんです。

コラボレーションという作業も初めてしっかりとやったのはKidsukeが初めてでしたし、当然あのアルバム(Kidsuke)は勿論僕だけの音ではなく、Gerard(Kidkanevil)に任せたり、お互いのアイディア交換の中で生まれた全く新しい要素なども多く取り入れ、また彼の持つクラビーでリスナーとの対話を楽しむような部分を欲している自分も居たので、非常に楽しく、かつ満足の行く結果を得られたと思っています。ただそこで一度思いっきり外に向かった後に作った自分自身の音楽を聴いたときに、今まで出来ていた何か大事な部分が失われているようにも感じました。なにか、正直さにかけているような、そういうものを作る事が多くなった気がして。だから今回のアルバムでは、また自分の内側に戻ろうと思ったんです。

__ご自身で描かれたアートワークは水中で矢が刺さった狼(?)が、逆さになっています。どのような意味合いが込められていますか。

あれ実は馬のつもりなんです。でも見る人によっては、犬だったり、オオカミだったり。いろんなものに見えるみたいですね。それは嬉しい事です。あまり物事を限定的に捉えられたく無い性格なので、タイトルもそうですが、フォーカスをあえてそらすような事は意識的にしています。元々あの絵に限らず、絵を描く行為は自分にとってとてもメディテイティブな部分が多くて、その時の感情がダイレクトに現れています。重苦しい気持ちのときには、本当に人に見せられないような病んだ絵が出てくるし。とにかく見せる事なんて意識せずに描いているんです。

ただ、普通の事だと思うんですが、出来上がった後に、それが満足のいくものだと人に見せたくなる。こんなもんが出来たよって。作る前から見せようとしている訳ではなく、結果、人に見せたくなる。それって今回僕がアルバムでやりたい事と一致しているので、アルバムを作っていく中でアートワークはあの絵にしようと徐々に思うようになっていったんです。だから今思うとあの絵は僕のアルバムの理想のゴールを表しているんだと思います。

__ジャングルブレイクを使用した「Pinebee」やゲームサウンドチックな音使いが印象的な「Expo」など幅広い音楽性が見受けられますが、制作する上でどのようなことからインスピレーションを受けますか。

インスピレーションはあらゆるところから受けます。音楽的な事に限らず全て。釣りが好きなんで、よく水辺のある光景の中に出かけるんですが、自然って流動的で同じ場所に行っても水かさが違ったり透明度が違ったり、流れが急で白波がたっているような時もあれば、まるで鏡のように静止画のような水面の時もある。自然に限らず、街の中でも電車の中でもそれは一緒で、そういう様々な出来事なんかを記憶して、強く自分の中に残った事が音楽に現れているんだと思います。

確か高校生くらいだった頃に本格的に音楽を作り始めたんですが、そのときに僕が出来上がった音楽を聞かせる相手は当時僕に音楽の面白さを教えてくれた友人一人しか居なかったんです。とても気心の知れた奴で、彼に聞かせるだけだったから特に格好を付ける事もなく、楽曲を作っていました。高校を出たあたりで彼はずいぶんと遠いところに引っ越していったんですが、その後もお互いが作った音楽を不定期的に送り合っていて、なんだか音の交換日記みたいな事をしていました。で、相手の音を聞くと、あれ、あいつこんな音を出してる。何かあったのかな?なんて思ったりして実際に電話してみると、「実は彼女が出来たんだ」とか言われて、ああ、そういう事だったのか。とか。お互いの音楽にそういう日常が反映されるような傾向があって。その頃から僕は身の回りの出来事を割と自然に制作するものに投影していたんだと思います。

__Tanabeさんの作る楽曲には一貫して、何かを叩いたり引っ掻いたりして鳴るような日常的な音が多用されていますが、そのような音を使用するようになったのは何故ですか。また特に好きな音があれば教えて下さい。

新しい楽器やプラグインって買い始めるときりがないんですよ。勿論楽器は好きなんですが、あ、こんなものが新しく発売されてる。面白い音だなあ。なんて買い続けていたら本当にきりがないでしょう。それにある程度ツールを限定させると逆にその制約の中で新しいものを作らなければいけないんで、色々と工夫するし。そういう過程で生まれた音って、売っている音より面白かったりします。日常音に限って言うと、レコーダーは一度買ってしまえば、無限に色々な音が録音できて、それらを加工する事で常に新しい音を探す事が出来るから、その可能性がとても面白いと思うんです。

自分で録音した音ってやっぱり愛着がありますから、ああいった音を使う事で当時の出来事を思い出すためのトリガーのような役目を担ってくれてたりもしますし。また、日常音はみんなの記憶を呼び起こす事も当然あると思うので、サブリミナル的に使ってみたり。好きな音って言うのは色々とあって、街の音も自然の音もどれも好きです。ただシチュエーションによっては同じ音がとても嫌な感情を引き起こす事もあるので、特別好き嫌いと言ったものはないと思います。あ、でも料理の音なんかはいいですね。食器とか、人の声とか。

__マスタリングは、Yoshi Horikawaさんが担当されていますが、Yoshi Horikawaさんに依頼した理由を教えてください。

今回の制作に限らず、常に自分はどこ居る何者なのか、そういった疑問を抱いています。果たして自分は誰なんだという、そういう感情や疑問が常にあるんですが、それはある意味で流動的に変化し続けているんだと思うんです。その流動的なシチュエーションの真ん中で考えを巡らせている自分が居る。常に想像すらしていない状況に置かれている訳で、僕にとってそれはとても興味深い事なんだと思います。今回アルバムを制作するにあたって、僕はライブも色々とお断りして制作に集中しました。日本の、僕の居場所の中で、自分に向けて作った音を普段のようにクラブに向けたマスタリングで最終的に揃えたくはなかったんです。そんな中でYosi君のアルバムを聴いたときに、とても柔らかい彼の音に非常に好感を持ったんですね。勿論それが結果クラブの中で流れる事もあるとは思うし、それはそれできちんと機能します。

ただとにかく彼のマスタリングには、Yosi君の人格そのものが見えた気がして、それは機能性とかそういったところを超えた魅力だったんです。彼とは長い付き合いでお互いの事もよくわかっているので、今回は彼に頼もうと制作の過程で決めました。日本ベースのアーティストだという事や、非常にその場の質感を大切にした音作りにも好感を持っていましたし、何より気兼ねなく色々なお願いを母国語で投げつける事ができるというのも大きな理由の一つだったと思います。

__リリース前に全曲試聴公開されましたが、フリーダウンロードによるリリースも珍しくない近年の状況の中、改めて音楽との向き合い方について、ご自身ではどうお考えですか。

この事について、最初僕は非常に懐疑的でした。けれども色々と変わっていく状況の中で、当然の動きだと思うようになりましたし、またリスナーの選択の幅が大きく広がっている事は好感を持って受け入れるべき事だと思います。僕が純粋なリスナーだった頃は、レコードショップの壁にかけられて”推薦盤”と書かれているようなレコードを闇雲に買うような時代でした。視聴機なんかも設置はされていましたが、その中に入っているCDはやはりお店が選んだもので、当然ネットでの視聴などもなく、ある意味で自分たちの選択肢はとても狭かったと思います。

それは自分のテイスト以外の方向から音楽を知れるという意味ではよい事だったかもしれませんが、結果、気に入ったレーベルからの音源を買いまくるようなレーベル買いなど、今では良くわからない買い方なんかもあったりして、人任せな部分が多分にあったと思います。副産物としてジャケ買いのように、中身ではなくパッケージからあたりをつけて音楽を購入するような買い方もあって、それはアートワークの重要性だったり、何が入っているかわからないドキドキする感じもあるにはありましたが。

そんな中でイギリスに行ったときに、あれは確かHMVだか、Towerだったか、とにかく大手のレコード屋に入った時に、気になるCDを店員さんに手渡したんですが、その店員が「視聴はしなくて良いの?」と、わざわざ袋をあけてCDを視聴機に入れてくれたんです。そのときに「皆が自分の耳で音楽を選んで買えるなんて、なんて素晴らしいんだ」と思いました。また中古のレコード屋でもポータブルのプレーヤーを持っていって、ジャケの無いデモ盤から一枚1ポンドくらいのセール品まで、全てを最初から最後まで視聴してる奴らも居て、これは凄い。と思ったのを覚えています。で、今の状況ってある意味でそれと同じだと思います。好きなだけ視聴して好きなものだけを買えるって言う事が普通になっている。そうやって、音楽をじっくりと視聴して、時としてフリーで手に入れたり買ったりできる状況は、昔僕らが、購入後ろくに聴きもしない音楽に(決して無駄だったとは思いませんが)かけていたお金を、例えば機材の購入に充てたり、実際にクラブなどの現場に足を運んでライブを観る資金にかえられる訳で、歓迎すべき事だと思っています。

__最後に、新しく立ち上げたレーベル〈Cat Eat Mosquito〉とご自身の今後の活動について、教えてください。

Cat Eat Mosquitoは、自分自身が自由になるための実験的な手段として立ち上げました。それまでレーベルのカラーとか、そういったものをどうしても意識してしまう自分が居たので、それを排除したかったんだと思います。なので、これからも自分が好きな事をやるための受け皿として機能させていく事ができればと思います。実際は、他の人の音楽をリリースしたいなと思う事もあるんですが、その時はまた別の問題なんかが色々と出てくるでしょうね。でもそういった新しい問題が次々と出てくる状況はつらくもありますが、ある意味でとてもエキサイティングな事だと思っているので、これからもユックリとですが面白い事を思いついたら試していきたいと思っています。

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■リリース情報
ARTIST: Daisuke Tanabe
TITLE: Floating Underwater
LABEL: Cat Eat Mosquito
CAT.NO.: CEMCD001
FORMAT: CD
RELEASE DATE: 2014.09.17.
PRICE: ¥ 2,000 + 税

01 Arrow
02 Paper Planes
03 Pinebee
04 Walking Muu
05 Origami
06 Sunny Tunnel
07 Allergy
08 Shopping Mall Super Star
09 Fun Robbery
10 Chugger
11 Rest
12 Blue Rats
13 Cloudy Water
14 Night Fishing
15 Expo

インタビュー・文:渡邊竜成
1994年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在籍。2.5Dのスタッフとしても日々勉強中。