ARTICLESJuly/24/2014

On Beat! (2) by Chihiro Ito – MC 5 “Back In The USA”

14062301

 先日、とある縁で知り合いになった方と、都内をドライブしていました。ファミリーレストランに入ったり、灰色のコンクリートジャングルのような道をしばらく行くとできたばかりの高速道路がありました。

 そんな無機質な場所を走っていると、6年ほど前にアメリカに行った時にピッツバーグを友人とワゴン車でドライブしていた情景を思い出しました。丁度、空気が乾燥していてビルと川と橋のひしめき合っていた悪名高い鉄鋼王、カーネギーで有名な町(アンディーウォーホルミュージアムもこの町にある)はアメリカ一、住みやすい町と自負していました。町のクラブで瓶ビールが100円だったこと、生活が過酷でもタフに乗り切っていくアーティスト達(僕が泊まらせていただいた方は世界中をアーティストとして飛び回るかたわら、レストランと牧場の経営、大学での講師を行いながらセルフビルドの家に住んでいました)の事など思い出しました。

 そのピッツバーグに行く数週間前に行っていたヴァーモント州のヴァーモント・スタジオ・センター(アメリカで最大のアーティスト向けの滞在施設)に数ヶ月滞在していた時に、作品制作以外の刺激がほしかった僕は、現地で友人になったアーティストに「ロックのパーティーを行いたいから音源を貸してほしい」とお願いしました。

2週間後、彼は僕にCDを貸してくれました。その中にはパブリック・イメージ・リミテッドやブラック・フラッグ、ジョニー・サンダースやパティ・スミスなど、イギリス、アメリカのガレージ・ロックやパンク、ニューウェーブなどの楽曲が60曲程、入っていました。そして何かのコンピレーションの中に、MC 5の「Looking At You」という楽曲もふくまれていました。

 MC 5のオリジナルアルバム(編集盤や企画もののライブ盤を除く)は3枚しか発表されていません。しかもファーストアルバムはライブ盤という少し変わったバンドです。ファーストアルバムの『Kick Out Jam』が出た1969年、アメリカはベトナム戦争をしていました。MC 5の当時のプロデューサーのジョン・シンクレアは黒人解放組織のブラックパンサー党に支持をされていたホワイトパンサー党の設立者でもありました。

また、その当時のポスターはサイケデリックなポスターで有名なゲイリー・グリムショウが多く製作しています。MC 5のヴォーカルのロブ・タイナーはアフロヘアーで前歯の間の隙間が個性的なふうぼうです(ちなみに、MC 5のリズムギターのフレッド”ソニック”スミスは僕が前回On Beat!(1)でも書いたパティ・スミスの旦那さんだったそうです)。

僕はMC5はジョン・シンクレアやゲイリー・グリムショウらとともに当時のアメリカ自身の持っていた戦争する大国というパブリックイメージの消化とそれを破壊し、バンド自身が新たにアメリカのパブリックイメージとなることを選んだのではないかとふと思いました。そして1970年、バンド周辺へのさまざまな圧力のなかで、MC 5はレコード会社を解雇され、プロデューサーも逮捕された状態で再度、別のレコード会社と契約し製作したのが「Looking at you」の入っている『Back in the USA』というアルバムです。

 僕はこのアルバムに、そのころ持ち歩いていたボブ・ディランも敬愛していたロックの聖書といわれているアメリカ大陸をヒッチハイクで横断する小説『On The Road』(ジャック・ケルアック著)の中の破天荒な話と僕の体感していたアメリカのイメージがあります。そして、このセカンド・アルバムはファースト・アルバムよりももっとストレートに50′sのロック・ミュージックのアルバムを新しく解釈したもののような気がしました。

『Back in the USA』は全部で11曲入っています。その内、2曲はロックの50′sのカバー曲です(1曲目「Tutti Frutti」はリトル・リチャード、11曲目「Back in the USA」はチャック・ベリーのカヴァーです)。この2曲はオリジナルとは違い、テンポも音質もアレンジされていて、初めて聞いたときにはアルバムの中に溶け込んでいて、MC 5のオリジナル曲だと思っていました。これらの曲がカヴァーされていることからも、オールドスクールのロックの影響がわかります。

 僕は2006年にアメリカのレジデンスから日本に帰った後、しばらくしてアメリカでの出来事をずっと思いながら製作活動を行っていました。そんな日々の中、MC5のアルバム『Back in the USA』を友人から貸りてきいてみました。

時代の背景を関係なく、このアメリカの東海岸の乾いた空気のような音は僕に旅に出る事の重要さを思い出させます。それは、まるで僕がアメリカのカボチャ畑しかない広大な道を友人と彼のスポーツカーで疾走していた20代中盤の心の不安定さや弱さをこのアルバムが体現しているように思いました。それがこのアルバムについて今回書こうと思った理由です。


文・画:伊藤知宏
1980生まれ。阿佐ヶ谷育ちの新進現代美術家。東京、アメリカ(ヴァーモント・スタジオ・センターのアジアン・アニュアル・フェローシップの1位を受賞)、フランス、ポルトガル(Guimaranes 2012, 欧州文化首都招待[2012]、O da Casa!招待[2013])、セルビア(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待)、中国を中心にギャラリー、美術館、路地やカフェギャラリーなどでも作品展を行う。9月にはスウェーデンのギター博物館で作品展予定。東京在住。”人と犬の目が一つになったときに作品が出来ると思う。”

HP: http://chihiroito.tumblr.com/

14072301

Artist: MC 5
Title: Back In The USA
Release Date: 1970/1/1
Label: Rhino Atlantic