ARTIST:

The Gaslamp Killer

TITLE:
Breakthrough
RELEASE DATE:
2012/9/26
LABEL:
BRAINFEEDER / BEAT RECORDS
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSOctober/22/2012

【Review】The Gaslamp Killer | Breakthrough

 ダディ・ケヴがロサンゼルスで立ち上げた<Low End Theory>は、LA周辺の若手DJ達が多く集まり互いに刺激し合って新しいベースミュージックのムーブメントを作り上げてきた。先月、その初期からレジデントDJとして活躍してきたザ・ガスランプ・キラーのファーストアルバム『Breakthrough』がリリースされた。同日には同じ<Brainfeeder>からフライング・ロータスの最新作『Until the Quiet Comes』が発売されたが、この2枚のアルバムはLAビートシーンの現在、そして今後の方向性を示す重要な作品といえるだろう。

 『Breakthrough』の最大の特徴はその流れにある。さすが世界各国で様々なジャンルの音楽をプレイし続けているだけあって、このアルバムも一貫性とそれを裏切る展開、きちんと最後に落とすという足し算引き算が綿密に行われている。まるで一つの物語を見ているようだ、と安易に言いたくなるが今作はそのように単純なものではなかった。このアルバムには客演としてディムライト、デイデラス、 サムアイアム、シゲトなど様々なアーティストが参加しているが、全17曲中客演がない曲が4曲だけある。M4、M8、M13、M17がそれにあたるが、そこをきっかけにして間の3〜4曲で1つの章を構成しているようだ。

 「Breakthrough Intro」で始まる第1章は、アルバムの幕開けとして静かな様相を保ちつつ、情動的なストリングスの響きで聞き手を高揚させる「Veins」、ジェイムス・ブレイクの様な静かなアナログシンセと、ハードコアなドラムが上手く同期する「Holy Mt Washington」へと移る中で聞き手を暖める役割を負う (余談だが個人的にはうれしいことに、3曲目の一番の盛り上げどころでゴジラの鳴き声がサンプリングされていた)。

 「Father」で始まる第2章は、1章で引き上げられた感情をさらに上げるため、攻撃的でシンプルなドラムをもとにバンドサウンドを昇華させたベースミュージックが続き、2章最後の曲「Flange Face」は1、2章を通して感じられたガスランプ・キラー解釈のダブステップを一気に爆発させている。ちなみに、この曲は米メディアのピッチフォークでもBest New Trackに選出されていた。

 続く第3章では、ガスランプ・キラーの土壌であるレゲエとブレイクビーツを全面に押し出している。しかし、ここでもガスランプ・キラーの特異な感覚が発揮されており、「Apparitions」ではレゲエのリディムに日本の昭和歌謡を思わせる叙情的な上ものと歌が合わさり聞く者をチルアウトに誘う。「Impulse」、「Meat Guilt」ではKode9やBurialの様なダブステップに重低音が加わり、ブレイクビーツのドラムでまとめたガスランプ・キラー最新の音が聞ける。

 終章となる第4章の基本の構成は基本的に3章と変わらないが、終わりを意識したものとなっている。M14「Nissim」もまたレゲエミュージックであり、今回はレゲエのリディムにバンジョーが乗ることでこれまた日本のポップミュージックの様な雰囲気を持つ。M16「Seven Years Of Bad Luck For Fun」では3章のガスランプ・キラー的なダブステップをさらに押し進め、8ビットのゲーム音楽的な音も取り込み、めまぐるしく展開する曲の構成が特徴的だ。そして最後の曲「In The Dark」ではこれまでとうって変り、シンセにかけたリバーブの影響で静けさと力強さが同期し、まるでエンドロールを見ている様な気分になる。1章で高めた会場を2章でピークに持っていき、残る3章は自らの趣向を提示し、4章でまとめ、トータルで最新のサウンドを聞かせる、という仕掛けは音楽的にもエンターテインメント的にも成功している。

 このアルバムがフライング・ロータスの『Until the Quiet Comes』と同時発売ということも興味深い。これは、<Brainfeeder>、ひいてはLAビートミュージックシーンの層の厚さ、レベルの高さを示している。ガスランプ・キラーのサウンドは、過去のフライング・ロータスのサウンドのイメージをも取り込みながら何か新しい方向性を示している。どこか宇宙的なイメージを想起させながらも泥臭く、リズムの複雑さというよりは多様な楽器の響きで踊らせようというものだ。そういう意味でも『Breakthrough』は『Until the Quiet Comes』とは明らかに目指している方向が違う。レーベルの長でもあるフライング・ロータスは自らの後継としてではなく、別の次元を開拓することを期待して、同時発売を決定したのではないだろうか。しかし今回の『Breakthrough』だけでは、ガスランプ・キラーのフォロワーが続々出てくる、というところまでは至っていない。次回作にはある種のカリスマ性を持った代表曲が入ることを期待してしまう。もしそれが実現したら、フライング・ロータスの目論みも成功したといえるだろう。

文: 森優也


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