ARTICLESMay/04/2014

Featured |「東京」特集 – Sugar's Campaign

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 5月5日、〈Maltine Records〉が主催するイベント「東京」。UNCANNYが連載してきた「東京」特集の最後を飾るのはSeiho(Seiho Hayakawa)とAvec Avec(Takuma Hosokawaのソロプロジェクト)によるアーバンポップバンド、Sugar’s Campaignだ。

 〈Maltine Records〉のイベントでは2013年に渋谷WWWで行われた「山」に続いて2回目の出演になる彼らだが、共にソロでの活動だけをとってもインターネットと現場を自由に行き来しながらシーンを牽引してきた実力者のふたり。まだこの名義での楽曲発表は少ないSugar’s Campaignだが、その現在とこれからを目撃できるという意味で「東京」出演者の中でも注目すべき一組ではないだろうか。

 Seihoは関西出身のビートメイカー。チルウェイヴ、音響系、ダブステップ、ヒップホップなど、過去の豊富な音楽経験が土壌となって繰り出される多彩なトラックメイクと激しいライブパフォーマンスに定評がある。1987年、寿司屋の息子として生まれ、父親の影響でアシッドジャズやブレイクビーツに触れて育ったSeiho。いち早くパソコンで曲を作ることに興味を持ち、小学生の時にはWindowsを使っていたという。中高生の時にはブラスバンドでトロンボーンの演奏にいそしむ一方、パソコンでの音楽制作も積極的に行ってきた。今やその活動の幅はVJなども含め多岐に渡っておりマルチな才能を発揮しているが、特筆すべきはやはり2011年に彼が主宰として立ち上げた〈Day Tripper Records〉である。幼少期よりパソコンとそれらを駆使して作られるエレクトロミュージックに慣れ親しんできた彼が、ネットレーベルの特徴であるリリースを比較的自由に行える面を持ちつつフィジカルな音源発表をしていくという目的で開始したこの関西発信のレーベルは、Madegg、Eadonmmなど若手トラックメイカーを擁し日本のエレクトロニック・ミュージックの最先端を行く存在になっている。彼自身も〈Day Tripper Records〉から1st Album 『MERCURY』をリリースしており、現在SoundCloudにて収録曲「No space… No time…」と「Pool」が視聴可能だ。

 また、ネットレーベル「+MUS」からもEPを発表するなど柔軟に活動しているSeihoだが、2012年には音楽フェス「Sonar Sound Tokyo 2012」に出演。そして、2013年に開催された「Sonar Sound Tokyo 2013」には、彼が率いる〈Day Tripper Records〉の主力アーティストがShowcaseという形で登場した。さらに、Gold Panda、Mount Kimbieなど世界的アーティストとの共演も果たし、MTVの注目若手プロデューサー7人に中田ヤスタカらとともに選ばれるなど、国内外で高い評価を得た彼が満を持してドロップした2nd Albumが、『ABSTRAKTSEX』である。

 トラップ、ジュークの要素も盛り込み、新しいポップスの姿を提案したこのアルバムはロングセールスを記録し、アルバム発売前にはフリーダウンロードなども実施していた「I Feel Rave」は「Sonar Sound Tokyo 2013」でも観客をレイブの渦に巻き込み、Seihoの代表曲として高い評価を受けている。

 音楽配信が主流の現在の音楽シーンの中において、物としてのCDを手触りやジャケットも楽しめるものとして音楽とともに届けるというコンセプトを持った唯一無二のレーベル〈Day Tripper Records〉の主宰として、また今後も間違いなく日本のクラブミュージックの中心に君臨するであろうビートメイカーとして、Seihoは今や世界からもその動向を注視される存在だ。

 そして、そんなSeihoがアーバンポップに挑戦するユニットSugar’s Campaign の片翼を担うのがAvec Avecである。1987年生まれで、Seihoと同じく関西出身の彼がAvec Avecとして楽曲制作を開始したのは2011年のことであり、〈Maltine Records〉やL.Aのレーベル〈Mush Records〉からEPをリリースするなどインターネット上を中心にその活動の幅を広げてきた。現代のポップスに真摯に向き合う姿勢は国内外で評価されており、2012年にはSeihoと同じく「Sonar Sound Tokyo 2012」に出演。どこか懐かしさを感じさせるベースミュージックやシンセポップを武器に、自身の楽曲製作だけではなく、南波志帆、一十三十一など数々の有名アーティストのリミックス、プロデュースも手掛けている。

 中でもAvec Avecの代表的な作品となっているEP『おしえて』は、シンガーソングライターMOMOを起用し、都会の夜を彷彿とさせるような(実際にPVの世界もそういった情景をバックに進んでいく)不思議な雰囲気と浮遊感を彼自身の音楽に落とし込んでいる。4曲入りのこのEPには坂本真綾の「悲しくてやりきれない」のリミックスも収録されており、レトロなシティポップにとどまらない今現在の音楽が表現された作品である。

 「ポップ」という軸をしっかり守りながらも、手掛けるリミックス一つ一つで多彩な表現を見せてくれるのもAvec Avecの魅力だと言えるだろう。2013年には、〈Mush Records〉より『Golden Years』をリリースし、80年代チルウェイヴやシンセポップの代表とも言われるようになったBrothertigerのヒット曲、「Lovers」のリミックスを披露。原曲よりもテンポを落とし、もっちりとしたビートで体を揺らせるような1曲に仕上がっている。

 またAvec Avecは〈Maltine Records〉とアイドルグループ東京女子流のコラボレーション作品『Maltine Girls Wave』にも参加。「Day By Day feat.中江友梨」の制作と「キラリ☆」のリミックスを発表している。それらの楽曲は、彼らしい洒落っ気のあるメロディになっており、東京女子流の魅力の一面を際立たせている。

 このように、それぞれすでに確固たるアーティストとしてのキャリアを築いており、あらゆる方面から高く評価されている二人が満を持して結成したのがSugar’s Campaignなのだ。20132012年1月、代表曲となっている「ネトカノ」が発表され、反響を呼んだ。YouTubeにてPVのフル視聴が可能になっている。まさにアーバンポップバンドの名にふさわしい爽やかで親しみやすい彼らのキラーチューンである。

 また、2013年2月、tofubeatsとokadadaによるユニットdancinthruthenightsとともに『ダブルトラブル~4人は仲良し~』をリリース。これはダブルトラブルという架空のアニメの主題歌という設定になっており、Sugar’s Campaignは「放課後ゆうれい」を担当している。これはRay Parker jrの同名映画の主題歌「Goastbusters」を、インターネット世代の新しいシティポップとして軽快なタッチにアレンジし、少女の繊細で移ろいやすい心情を表現した歌詞を載せて仕上げた。歌はニコニコ動画の歌い手「あきお」が担当。Bandcampにてフリーダウンロード公開されている。

 その他、DJ WILDPARTYが「東京」の為に出演アーティストの楽曲をミックスした『Tokyo Mix』には、音源発表はされていない「有名な映画のようにラブリーな恋がしたい」が収録されており、「東京」でのプレイがあるのかどうか気になるところである。

 Sugar’s Campaignとしての音源発表はまだ多くはないが、彼らはすでにアーティストのプロデュースも手掛けている。泉まくらの「東京近郊路線図」は彼らがプロデュースしており、Sugar’s Campaignらしい重ためのシンセの音が光るアレンジになっている。

 2.5Dでも精力的にライブ活動を行っている彼らだが、2012年の「南波志帆ナイト」にて「それでも言えない You&I」のリミックスを披露した回の動画をYouTubeで視聴できる。キャリアに裏打ちされたミックスセンスもさることながら、一心不乱にプレイする彼らの姿からは、アーバンポップという音楽へのリスペクトまで感じることが出来る。「東京」の予習として是非おすすすめしたい動画だ。

 彼らのメディアは現時点ではTumblrのみであり、まだユニットとしては謎が多いSugar’s Campaignだが、Seiho、Avec Avecそれぞれの活躍とその楽曲の秀逸さをとっても、また、すでに発表されている「ネトカノ」などの名曲をとっても、このユニットが10年代におけるアーバンポップの主軸になっていくことは間違いない。「東京」においても楽曲とライブパフォーマンスで存分にその魅力を味わせてくれることだろう。

■イベント情報
Maltine Records presents 「東京」
@LIQUIDROOM + KATA
OPEN / START 15:00
ADV / ¥3,300(税込・ドリンクチャージ別)

出演アーティスト:tofubeats / Sugar’s Campaign / MEISHI SMILE / bo en / okadada / DJ WILDPARTY / PARKGOLF / Pa’s Lam System / ラブリーサマーちゃん / Fazerock / Gigandect / Carpainter / Tomggg / PPS / ACID WHITE HOUSE / Yoshino Yoshikawa / Qrion / Miii / 三毛猫ホームレス / パジャマパーティズ / Hercelot / MadMaid

TICKET: チケットぴあ [225-911] ローソンチケット [72527] e+ 楽天チケット,3/22 ON SALE
※未就学児童の入場不可
Info:HOT STUFF PROMOTION 03(5720)9999
MaltineRecords「東京」公式ページ: http://tokyo-0505.cs8.biz/

文:野口美沙希
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。青山学院大学総合文化政策学部在学中。音楽藝術研究部に所属し、ジャズを中心に聴いている。