ARTIST:
Skrillex
TITLE:
Recess
RELEASE DATE:
2014/3/19
LABEL:
Warner Music Japan
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSApril/11/2014
【Review】Skrillex | Recess

 EDMはゲームである。何が群集を盛り上げ、誰が名声を手にするのか。そんな資本主義のフィールドで繰り広げられる心理ゲームであり、フェスティバル会場を舞台にした実力勝負である。世界に蔓延るEDMプロデューサー達は、一人でも多くの観客を湧かせ、夢の様な大金を手にするために、SoundCloudに日夜楽曲を、Instagramには制作風景を公開し、Facebookで人々の関心を引くためのメッセージをアップロードし続け、その実力と、スター特有のビッグマウスを磨くのである(驚く事に、SoundCloudやTwitterのフォロワー数をお金で購入するサービスまで存在する。僕の元にも時たまプロモーションのメールが届くことがあった)。 

 そのため、EDMというシーンは、その享楽的なサウンドとは裏腹に、複雑な(そして子供っぽい)心理戦で構成されている。先日アメリカで開催された<Ultra Music Festival 2014>では、Aviciiがその多忙さ故に体調を崩しダウン、出演を見送る形となったが、代打としてDeadmau5の出演が決定、大きな話題となった。しかし彼は、パフォーマンスとしての素晴らしさを保ちながらも、EDMというシーンに水を差すような楽曲を披露した。その様子は「DEADMAU5 TROLLS ULTRA 2014」という題名でYouTubeに動画が公開されている。

 思えばDeadmau5の天邪鬼っぷりは以前からの話である。Skrillexがノミネートされた2012年のグラミー賞授賞式では、Deadmau5はなんとSkrillexの電話番号が記載されたTシャツを着用し登場したのである。彼らの仲が悪いのならまだしも、Deadmau5はSkrillexのEP『Scary Monsters And Nice Sprites』を彼のレーベル〈Mau5trap〉からリリースしたにも関わらず(しかも、グラミー賞にノミネートされた作品こそ、そのEPだ)、である。この彼らの「手段を選ばない」パフォーマンスは、いうなればEDMというゲームの本質であって、彼らは多くのメディアと観衆、更には仲間たちまでも煙に巻き、ゲームフィールドを白熱させ続けるのだ。

 今年3月、突如リリースされたSkrillexの待望の新作にして初のアルバム『Recess』は、彼の以前のEP『Scary Monsters And Nice Sprites』『Bangarang』の流れを継続しながら、昨年にかけて流行したTRAPやTwerkといったサウンドを吸収し、また、非常に多くの客演アーティストを招いて制作されている。一例を挙げると、Skrillexが携わるレーベル〈OWSLA〉からもリリースをしているKill The Noise(2曲目「Recess」)やAlvin Risk(4曲目「Try It Out」)、Moombahtonというジャンルを中心に制作活動を行う音楽ユニットMilo & OtisからKillaGraham(3曲目「Stranger」)、何十年も活動を続けるラガMCユニットRagga Twins(1曲目「All Is Fair In Love And Brostep」、7曲目「Ragga Bomb」)、更には BIGBANGに所属するG-DRAGONと2NE1のCL、そして〈Mad Decent〉のDiploを一同に招く(6曲目「Dirty Vibe」)など、SkrillexというよりBrostep〜EDMシーンの総決算を行うかのような豪華布陣である。そのサウンドは勿論非常に多彩でありながら、方向性を見失わず、また、1曲目「All Is Fair In Love And Brostep」やスウェーデンのエレクトロ・ポップバンドNiki & The Dove の楽曲をリミックスした10曲目「Ease My Mind」のようなまさにSkrillexというようなサウンドから、8曲目「Doompy Poomp」や9曲目「Fuck That」のような実験的なチューンまで忘れずに収録されている辺りに、『Recess』のアルバムとしての完成度の高さがうかがえる。これがSkrillex初のアルバムであるという事実も含め、表向きにも賞賛できる作品であるが、それだけでなく、その奥底に流れる意思を深読みできるという意味でも、『Recess』は味わい深いアルバムである。

 アルバム1曲目「All Is Fair In Love And Brostep」の題名は「All is fair in love and war(恋と戦争は手段を選ばない)」という諺が元である。WarがBrostep(US系Dubstepの俗称)に置き換えられているその真意は、UKのプロデューサーZomboyの楽曲を追うことで理解できる。

 つまり、Zomboyが昨年の9月にリリースしたEP『Reanimated Pt.1』に収録されている「Terror Squad」に類似したベースパターンが「All Is Fair In Love And Brostep」において使用されているのである。これは俗っぽく言えばパクリ、学者の世界では剽窃に近い行為であるが、ここにおいて更に幾つかの考察を重ねることができる。まず、SkrillexとZomboyのサウンドの関係性は以前より度々指摘されており、「ZomboyはSkrillexのPCを使って音を作っている」とまで揶揄される程である(勿論、真意の程は定かではない)。しかし、現に、Dubstepのサウンドパッチはインターネットにおいて大量に公開されており、様々なアーティストの音が似通ってくる事は稀ではない。また、今回の件に関してZomboyとSkrillexはそれぞれのSNSにおいて興味深い文章を残している。Skrillexが言うことは、つまりはこうである。「僕とZomboyは喧嘩をしているわけじゃない。これはゲームなんだ……手段は選ばないけれど」。



 Deadmau5は、<Ultra Music Festival 2014>において似通ったEDMのサウンドに民謡のメロディーを載せることで何万ものオーディエンスの熱狂を皮肉った。そして、SkrillexはZomboyと似たサウンドを堂々とアルバムのトップに配置することで現在のEDMのシーンを象徴的に表現している。しかし、この事でEDMの台頭と純粋な音楽の衰退を比較して嘆き悲しむこともSkrillexの本望ではない。彼らが「手段を選ばずに」曲を作るのは、そのまま「良いものは良い」ということを表現するためであろう。そういう意味では、EDMシーンの現状の音楽を皮肉るDeadmau5も、Brostepと揶揄されるような音楽を発信し続けるSkrillexも、良い音楽に貪欲であるという点で全く変わりはない。盛り上がることを重視し洗練されていくEDMサウンドと裏腹に、激化していくゲームと深化していくプロデューサーの苦悩。自らの実力を磨き、様々な手段を講じては一喜一憂するDJ達にSkrillexがアルバムの最後に告げる言葉はこんな感じだ。

「Fire Away(撃って来い)」。



文:和田瑞生

1992年生まれ。UNCANNY編集部員。ネットレーベル中心のカルチャーの中で育ち、自身でも楽曲制作/DJ活動を行なっている。青山学院大学総合文化政策学部在籍。