ARTIST:

Burial

TITLE:
Rival Dealer
RELEASE DATE:
2013.12.14
LABEL:
Hyperdub / Beat Records
FIND IT AT:
Amazon
REVIEWSFebruary/03/2014

【Review】Burial | Rival Dealer

 深く沈み込むようなメランコリックなサウンド、ありとあらゆる音源を駆使したブリコラージュ的方法論と、ダブステップのリズム感を一夜にして更新したビートの先見性によって、アンダーグラウンドなダンスミュージックの世界においても孤高と言える存在となったBurial。長きに渡る沈黙を破り、再び動き出したそのビートは二重、三重にも渡ってこちらの予想の斜め上を行き、未だ流行りの音楽タームの一翼として消費され尽くすことを拒否する気概に満ちたものであった。いや、そもそもBurialの音楽は最初から言語によって固定化されることを拒否するものであり、常に消費と活性化、誕生と形骸化のサイクルから外れた場所で鳴らされ続けてきたのだ。

 1年振りのEPとなる『Rival Dealer』からは、今までのポスト・ダブステップ的方法論を自ら破棄し、その上でBurialの色を失わず、また新たな自分の音楽を模索した彼の姿が想像出来る。1曲目の「Rival Dealer」において提示された直線的でインダストリアルなジャングル・ビートは、まさにその宣言、形骸化したダブステップへの決別として今のダンスミュージック・シーンにおいては響くだろう。ここまで好戦的で高揚感あるリズムがBurialの楽曲で聴けるとは、正直いままでであれば全く予想できなかった。そもそも、「ダブステップ」というターム自体を嫌い、自身の愛する音楽がアンダーグラウンドな領域で鳴らされ続けることを願ってきた彼にとって、ダブステップとして形容される音楽自体のオーバーグラウンド化が進行し過ぎた現在においては、ポスト・ダブステップの始まりと評された『Untrue』で提示したダウナーなビートから、如何に遠い場所へ行くかということが課題だったのだろう。その意味では、今作はBurialの第2章と言えるだろう新たな始まりを予感させるには十分な作品である。直情的なビートによって始まりを告げた「Rival Dealer」はミックステープのようなぶつ切り感覚で、突如、異教の儀式の只中へ放り出されたかのような異様なハードミニマルへと姿を変え、かと思えば次の瞬間にはアンビエント〜ドローンを背景に甘いささやきを繰り返すR&Bシンガーが、官能的で淫靡な世界へと我々を誘い込む。「Hiders」のニューウェーヴ感ある白い世界に鳴り響く讃美歌のような曲調も、今までのBurialであれば聴く事ができなかったものだろう。そして「Come Down to Us」ではさらなる深みへ。古風なニューエイジ感すら溢れるアトモスフェリックなシンセが埋め尽くす白い世界の中で高らかに歌われる官能的なボーカルは、雨音と雷鳴のサンプリングに象徴されるBurialのバックグラウンドとなったロンドンの憂鬱な光景すらも、終結部では祝福するかのような恍惚溢れるドラマチックなラストへと導いていく。

 R&Bからのサンプリング、偏執的なノイズ・コラージュ、全体を統一するメランコリックなフレーズなど、細部においてはどの曲もBurialらしさ溢れるものでありながら、今までの楽曲とはその組み合わせ方とパーセンテージが明らかに違うのが今作の特筆すべき点だ。全体を貫くビートも、Burialの源流にあるとされるジャングルやテクノへの敬愛を感じさせ、第2章にふさわしい新たな手ごたえを感じさせるだけでなく、俄かに活気づいてきたインダストリアル・シーンの息吹や、Oneohtrix Point Neverなどノイズ~ドローンの新たな潮流とも共鳴する部分がある。もはやアンダーグラウンドなビートの主戦場がジューク/フットワーク、そして現代的な再解釈によるインダストリアル、ノイズ〜ドローンへと移り変わりつつある中で、Burialの矛先が時代に追いつかれたのか、はたまた意識した結果か。消費と活性化のサイクルは数か月単位でますます加速している。理想の世界で鳴り響くアンダーグラウンドな音楽を求めて、彼の探求はまだまだ終わることはないだろう。

文:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。