INTERVIEWSNovember/19/2013

【Interview】Teen Daze − ”Glacier”

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 時代の移り変わりは残酷なまでに早い。チルウェイヴ、ヴェイパーウェイヴ、シーパンク……など、特にインターネットが絡んだ現在では、活発化と鎮静化の動きを数か月の間にリスナーは体験し、あっという間に我々は見知らぬ土地に置いてけぼりを食らわされていた、なんてことも多々あることだ。そして、その時初めて、結局あれは何だったのか?というかつての総括と内省を否応なく迫られることになり、時代の流れに絡め取られ、別の視点を失っていたことにも気づかされるのである。

 カナダ南西部、ブリティッシュ・コロンビア州出身のTeen Dazeの音楽もまた、最初に我々の前に現れた時の認識は、チルウェイヴ的な潮流のフォロワーとしてであった。しかし、彼の音楽的可能性がそれだけに留まるものではなかったことは、3枚目のニューアルバム『Glacier』によってもはや自明のこととなった。”Glacier”=「氷河」をテーマに掲げた本作は、荘厳な自然を想起させるアンビエント・トラックと甘いメロディを紡ぐ歌声、エレクトロニカの系譜とポスト・ダブステップ、ポスト・チルウェイヴ的感性を融合させた現代的なビート・メイキングによって、アンビエント~エレクトロニカ~ダブステップ~チルウェイブ~ドリーム・ポップの境界を自在に横断する彼の音楽性が、より明確に顕在化した作品である。

 彼の音楽の根底にあるものは一体何なのか。その音楽はこれからどこに向かおうとしているのか。ジャパンツアーとして、渋谷O-east、新潟<red race riot!>、そして当サイト主催のイベント<UNCANNY LIVE SHOW 2013>にも出演間近の彼に、『Glacier』の制作過程や、現在の音楽にまつわる状況を問うことによって、その音楽観、芸術観もが露わになるインタビューとなった。

_「氷河」という大きなテーマを選んだのはどうしてですか? あなたが生まれ育ったカナダという土地と関係があるものでしょうか?

もちろん。『Glacier』の制作を始めた時、僕は今作の曲は全て、かなりはっきり「冬」というテーマに沿ったものだと感じていたよ。去年の10月に作曲とレコーディングを始めて、その時期は僕にとっては冬眠のための時間のようなものだったんだ。今までで一番忙しかった夏のツアーを終えて、僕は家で過ごすことにかなり心を囚われていたからね。だから、僕がその時に作曲した多くの曲は、制作をしていた頃の季節を反映していた。カナダは冬になるととても様々な顔を見せてくれるんだけど、西海岸に住んでいる僕たちにとって、冬はとても雨が多くて灰色がちで、僕はその感じが本当に好きなんだ。その感じはアルバムが示唆するほど氷っぽくはないかもしれない。でも、それが想起させるものに想像を没頭させることは常にいいことだ。

_今まででは最もアンビエント寄りなアルバムだと思いましたが、その変化は意識的なものでしたか? あなたにとって、アンビエント・ミュージックとは何ですか?

僕にとって、冬とアンビエント・ミュージックはとても密接なつながりを持っている。夏は、もっとアップビートで上昇的な音楽のほうが好きだ。でも、冬の間は1日が短く、陽射しもとても少なくなるから、ゆっくりとして暗めなアンビエント・ミュージックのほうがしっくりくる。それで去年の冬は、GrouperやMount Eerie、Brian Enoの曲をたくさん聴いた。そして、同じようなことをやろうという計画をその頃に立てたんだ。僕はアンビエント・ミュージックが本当に好きだし、よりアンビエント寄りな音楽を制作している時こそ、自分自身に最も実直な表現をしていると感じる。ダンス・ミュージックを作ることは楽しいよ。でも、僕はクラブには行かないし、田舎暮らしをしているからね。僕はそんなに早いペースで生きているような感じじゃないから、ゆっくりとしたアンビエント・ミュージックは僕自身をとてもよく反映していると思うんだ。

_『The Inner Mansions』ではBrian Enoの「Always Returning」をカバーし、『Glacier』にも『Music for Airports』などの諸作品を彷彿とさせる曲がありましたが、やはりBrian Enoからの音楽的影響は大きいですか?

それはとても。彼は音楽だけでなく、哲学、デザイン、ビジュアル・アート、そして人間として僕にインスピレーションを与えてくれる存在なんだ。僕は控えめに言っても彼の大ファンだよ。

_最近のあなたの音楽的傾向として、『The Inner Mansions』ではFrankie Roseと共演したギターポップの曲があったように、よりトラック自体から歌ものへの意識が強くなっているように感じられますが、違いますか?

僕の次のアルバムは、より伝統的な「歌」の構造に焦点を当てたものになるよ。僕は60年代のロックを愛しながら成長してきたし、ポップ・ミュージックの構造は常に僕自身の奥底に深く沁み込んでいるものだったからね。もっと実験的なスタイルを推し進めることも好きだけど、多くの時間は「歌」を作ることに自然と関心が向いていたんだ。

_今作は『The Inner Mansions』と並んでポスト・チルウェイヴ的な傾向を感じましたが、それは意識しましたか? そもそもあなたは、初めはチルウェイヴ系のアーティストとして広く受け入れられましたが、あなたとチルウェイヴの距離感は常にどのようなものだったのでしょうか?

僕は何かを作っているときは、決してジャンルのことは考えない。何か特定のスタイルの範囲内で作曲しようとはせずに、いつもその曲やアルバムに最も合っていると感じた方向に作曲しているだけだよ。

_様々な音楽的要素が1つとなっているあなたの音楽制作において、核となるものは何ですか?

それは歌から歌、アルバムからアルバムによって変わるな。『Glacier』では、核となるものは冬の屋内に関するアイデアと、そこから来る平穏ということだった。だから『Glacier』というタイトルは、大きなインスピレーションの要素だった。ゆっくり動く氷河という存在にふさわしいサウンドトラックとはどのようなものか? その大体のアイデアは心の中にあって、それが多くの異なる歌のアイデアに向かっていった。『The Inner Mansions』と『All of Us, Together』では、より多くのコンセプトがアルバムの背後にはあった。そして、それを通して物語を語ったんだ。

_SF小説や16世紀の宗教書などから着想を得たという過去のアルバムもありますが、普段の音楽制作では何からインスピレーションを与えられることが多いと思いますか? 例えば、最近、最も興味のあるものは?

最近は、Nicholas JaarやJon Hopkinsといった実験的なエレクトロニック・ミュージックを作るプロデューサーに、かなり影響を受けていると思う。2人とも、かなり独特で新しい音のするエレクトロニック・ミュージックを作っていて、必ずしもその音だけでなく、とても新しく他と異なるものに挑戦するそのアイデア自体に、僕は励まされるんだ。そして、僕は環境からも多くのインスピレーションを与えられていて、正に今、楽しい冬にその身を落ち着かせているから、僕の音楽にそのことを反映させないのは難しいんだよ。

_Twitter上で、昔、Atlas Soundのあるライブを観た際の観客の反応がひどかったことに触れて、常に創造的なものに対してはオープンマインドで理解する必要があると呟いていましたが、あなたにとって創造的なものとは何でしょうか?あなたは自分の音楽を芸術だと思いますか?

もし誰かが彼らの作った芸術作品を共有出来るように決断したならば、彼らは観客にある程度の尊敬を払うことを要求するべきだと僕は思う。でも時々、コンサート会場ではそれが出来ないことがある。その時Atlas Soundはバーで演奏していて、そこにはただそこで飲むためだけに来ているような多くの人々がいた。もしあなたがアーティストのパフォーマンスを観るためにお金を払ったとしたら、彼らのパフォーマンス自体に関わらず、観客は彼らのパフォーマンスのために尊敬を払う必要があるはずだ。そして、音楽は芸術の美しい形であり、また僕たちの一生を通じて流れている血液だと僕は思っている。それは真の芸術であって、ただの芸術じゃない。つまり、僕たちの世界にとって必要な一部なんだ。

_エレクトロニック・ミュージックの魅力とは何だと思いますか? 様々な楽器もこなせ、歌も歌えるあなたがこの音楽を作り続ける意味とは?

音楽は、常に僕が自分自身を表現するための最高の方法だった。他の芸術の形で表現しようとしたこともあったけど、いつもそれは馬鹿げた結果で終わってしまった。音楽は常に僕が心地良いと感じられる表現なんだ。特にエレクトロニック・ミュージックは僕を魅了し続ける何かを持っていた。僕は今までずっと一般的な電子機器を扱うことにも強い興味を持ち続けてきて、電子機器を通して音楽を作るという考えには、僕の興味を惹き続ける何かが常にあったんだ。

_リミックス・ワークやツアーで共演経験のあるXXYYXXやGiraffage、Slow Magicといった若手アーティストたちをどう思いますか? あなたと彼らの音楽は、ポスト・チルウェイヴ、ポスト・ダブステップという点において何かしらの共通点があるような感覚を抱きます。

そうしたプロデューサーたちの多くは僕の友達であり、また本当に素晴らしい人たちだよ。僕は自分自身をそうした最近のプロデューサーたちと似ているとは思っていないけど、でもそういう種類の音楽は大好きだし、彼らが新しくて面白いことをやっているのを見ると、いつも励まされる気分になるね。

_そもそもあなたが最初に発見されたのはTumblrのポストがキッカケであり、ネットを通じてあなたの音楽が広く知られるようになったわけですが、インターネットの功罪についてはどう考えていますか? SNSを通じてリスナーの反応がダイレクトに伝わり、無名でも良質な音楽が瞬時に発見されるようになった半面、チルウェイヴやヴェイパーウェイヴといった一種のムーブメントが生まれ、消費され移り変わるスピードも爆発的に早くなりました。常に流行とも向き合わなければいけないエレクトロニック・ミュージックの作り手として、そのことが音楽制作に与える影響は何かありませんか?

僕は音楽とインターネットの関係に関しては、多くの信じられないメリットがあると思っているよ。10年前だったら、リスナーがこんなに簡単にミュージシャンにアクセスするなんてとんでもないことだった。世界中の人々が僕の音楽を聴くだけでなく、僕自身とそれについて対話できるということは、本当に素晴らしいことだと思う。そのように語られるということやアクセスしやすいことが意味するものは、たくさんのリスナーがあたかも僕を所有しているように感じているということだ。またそれは、人々が不満を表明したEメールやメッセージからの影響を受けやすいということも意味している。僕の嗜好がファンに気に入られなかった時、今では彼らはそれを僕に言うことが出来る。そして、それはミュージシャンとして、より薄い皮膚を身に付けなければいけないということでもある。でも、僕はそれでいいんだ。なぜなら、もしそれが僕のファンともっとアクセスしやすい方法で交流できるという意味なら、その時は僕もその一員だからね!

_あなたの今までの音楽活動の中で、最も大きなインパクトとなったものは何ですか?

今までに大きな衝撃を与えられたレコードや本はいくつかあるけど、この質問に対する回答は毎月変わっているような気がする。いつでも変わらなかった1つの大きなことは、友達と家族のサポートがあったことだと思うね。音楽を作る人はたくさんいるけれど、彼らの生活においては音楽制作を励ましてくれる人がいないことも多い。僕は、僕をサポートしてくれる意志を持った人たちに恵まれていて、それは僕が人々をがっかりさせているように感じずに、音楽を追求する自由を持っていることを意味するんだ。

_当サイトUNCANNY主催の<UNCANNY LIVE SHOW 2013>では、10代~20代の日本の若手アーティストと共演することになりますが、日本のエレクトロニック・ミュージック・シーンを知っていますか?今回の来日に向けての感想を教えてください。

そうだね、僕はいろんな理由があって興奮してる。その中でも大きな理由は、僕は今まで日本に行ったことが全くなかったし、いつも行きたいと思っていたからなんだ! それに僕はDustin Wongの熱烈なファンだから、共演できることはとても名誉なことだよ。僕は日本のエレクトロニック・ミュージックについてはあまり多くを知らないけれど、INNITのクルーについてはたくさん聞いているし、Ryan Hemsworthのリミックスを通してTaquwamiを発見したんだ。彼の曲はとてもいいね。

_これから先の大きな予定などがあったら教えてください。

日本に行った後は、クリスマスの催し物をして、僕と妻はたくさんのクリスマス映画を観て、多すぎるほどの食べ物を食べるつもり。そして、新年のあとは、ニューアルバムのための作業を始めるつもりさ! 刺激的な時間だね!

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■リリース情報
Artist: Teen Daze
Title: Glacier
Cat#: ARTPL-042
Format: CD / Digital
Release Date: 2013.09.17
Price(CD): 1,980yen(税込)/1,886yen(税抜)
※日本先行発売(CDリリースは日本のみ)
※ボーナス・トラック4曲収録
※解説 / 歌詞・対訳付き

01. Alaska
02. Autumnal
03. Ice On The Windowsill
04. Tundra
05. Flora
06. Listen
07. Forest At Dawn
08. Walk
09. Leaf Canopy *
10. Forest At Dusk *
11. Sunrise *
12. Piano Room *

*= Glacier “B Sides” [Japanese Bonus Tracks]

More Info: Teen Daze



■イベント情報
PLANCHA 5th Anniversary vol.3 TEEN DAZE JAPAN TOUR 2013
11/22 (Fri) 東京・渋谷O-nest with Dustin Wong, RLP
11/23 (Sat) 新潟・golden pigs yellow stage “red race riot! vol.31”
11/24 (Sun) 東京・恵比寿KATA + Time Out Cafe & Dinner “UNCANNY LIVE SHOW 2013″

UNCANNY LIVE SHOW 2013
Date: 2013/11/24(Sun)
Open/Start: 4pm (-10pm)
Place: KATA + Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
Price: 3,000yen(Adv)* | 3,500yen(Door) | 3,000yen(Door/Student discount)**

*LAWSON(Lコード:77852)、イープラス、DISK UNION(SHIBUYA CLUB MUSIC SHOP/SHINJUKU CLUB MUSIC SHOP/SHIMOKITAZAWA CLUB MUSIC SHOP)、JET SET TOKYO、PLANCHA、LIQUIDROOM

前売りチケットご購入の方には、イベント記念ステッカー+スペシャル音源ダウンロードコードを当日プレゼント!

**学生の方は、受付で学生証の提示で特別料金当日券3000円となります。ただし、前売りチケット購入のお客様の入場を優先しますので、会場のキャパシティ上、当日ご入場出来ない場合があります。当日は、事前に公式Twitter等でご確認ください。

*イベント特設サイトはこちら

Live Act:
Teen Daze
tofubeats
Madegg
The Wedding Mistakes
Carpainter

Opening DJ:
Toyo D(MAC)
Funky Fresh Watanabe(MAC)

VJ: daahara

Artwork by buna

Special PR site design by ARK TYO

主催:UNCANNY
企画制作:UNCANNY/LIQUIDROOM
お問い合わせ:UNCANNY, LIQUIDROOM(03-5464-0800)



インタビュー・文・翻訳:宮下瑠
1992年生まれ。UNCANNY編集部員。得意分野は、洋楽・邦楽問わずアンダーグラウンドから最新インディーズまで。青山学院大学総合文化政策学部在籍。